独立性
Independence ・ どくりつせい
一方の結果が他方の確率に影響しない関係。確率計算を単純にする鍵
概要
独立性は、「一方の結果を知っても、他方の起こりやすさがまったく変わらない」という事象どうしの関係を指します。コインを2回投げるとき、1回目が表だったと知っても2回目が表の確率は 0.5 のまま — このとき2つの事象は独立です。条件付き確率の言葉では P(A|B) = P(A)、つまり「条件Bを知る前と後で確率が同じ」ことが独立の定義になります。
独立が成り立つと、確率計算は劇的に単純になります。両方が起こる確率が単なる掛け算 P(A∩B) = P(A) × P(B) で済むからです。コインで表が10回連続する確率が 0.5 の10乗と即座に計算できるのは、各回が独立だからにほかなりません。逆に独立でない(従属な)事象では、この掛け算は成立せず、条件付き確率を使った丁寧な計算が必要になります。
独立性は計算の便法であると同時に、統計モデルの根幹をなす「仮定」でもあります。「標本の各データは独立に得られた」「試行は独立に繰り返される」— 推測統計の定理の多くはこの仮定の上に建っており、独立性が成り立つかどうかの見極めは、確率計算の正しさとモデルの妥当性を左右する鍵です。
なぜ生まれたか
確率論の初期の計算対象はサイコロやコインの繰り返しでした。「サイコロを4回投げて少なくとも1回6が出る確率」のような問いに答えるには、「各回の結果は他の回に影響しない」という前提を置いて確率を掛け算する必要があります。この「影響しない」を暗黙の直感のままにせず、P(A∩B) = P(A) × P(B) という検証可能な条件として明文化したことが、独立性という概念の誕生でした。掛け算してよい場面とそうでない場面の境界線が、初めてはっきり引かれたのです。
明文化が重要だったのは、独立の仮定は直感的にもっともらしく見えて、実は破れていることが多いからです。保険数理では「契約者の死亡は互いに独立」とみなして保険料を計算しますが、疫病や災害はこの独立性を壊し、破綻を招きます。金融危機でも「各ローンの債務不履行は独立」という想定が崩れたことが損失を桁違いに膨らませました。独立性は「成り立つと便利な性質」であると同時に「破れを見逃すと危険な仮定」であり、だからこそ定義を明確にして検証の対象にする必要があったのです。
詳細
定義 — 掛け算が成り立つこと
事象AとBが独立であるとは、P(A∩B) = P(A) × P(B) が成り立つことです。条件付き確率の乗法定理 P(A∩B) = P(B) × P(A|B) と見比べると、これは P(A|B) = P(A)、すなわち「Bを知ってもAの確率が動かない」ことと同じだと分かります。トランプから1枚引くとき、「ハートである」と「エースである」は独立です。ハートだと知っても、エースの確率は 4/52 = 1/13 のまま(ハート13枚中エースは1枚で 1/13)だからです。一方「ハートである」と「赤い札である」は独立ではありません。ハートと知った瞬間、赤である確率は 1/2 から 1 に跳ね上がります。
なお「独立」と「排反(同時に起こらない)」はよく混同されますが、ほぼ正反対の概念です。排反なら片方が起きた時点でもう片方の確率は0になる — つまり片方の情報が他方の確率を最大限に変えるので、(確率が0でない限り)排反な事象は決して独立ではありません。
独立性が支える定理たち
統計学の骨格をなす定理は、ほとんどが「独立な試行の繰り返し」を前提にしています。表の回数を数える二項分布は各回の独立を仮定して掛け算で組み立てられており、大数の法則は「独立に繰り返せば相対頻度が真の確率に収束する」ことを、中心極限定理は「独立な偶然の足し合わせは正規分布に近づく」ことを述べています。標本抽出で「無作為に独立に抜き出す」ことにこだわるのも、これらの定理を適用できる形でデータを取るためです。裏を返せば、データに独立でない構造(同じ人の繰り返し測定、時間的に連続した観測など)があるとき、独立を前提にした分析は誤った結論を出します。
確率変数の独立と、相関との関係
事象の独立は確率変数にも拡張され、「一方の値を知っても他方の分布が変わらない」とき2つの変数は独立と言います。2変数の値の出方をまとめた同時分布と周辺分布の言葉では、同時分布が周辺分布の積に分解できることが独立の条件です。独立な変数どうしの共分散は必ず0になり、相関も0になります。ただし逆は成り立ちません。相関係数が測るのは直線的な関係だけなので、U字型の関係のように「無相関だが独立でない」場合があります。独立は無相関より強い条件である — この非対称は実務でも試験でも頻出の要点です。
独立の仮定をどう見極めるか
実務での独立性は「証明するもの」ではなく「吟味する仮定」です。物理的に干渉のしようがないか(別々のコイン投げ)、共通の原因で連動しないか(同じ地域の住宅ローン、同じサーバー上の障害)、時間的な引きずりがないか(昨日の売上と今日の売上)を考え、怪しければ独立を仮定しない分析に切り替えます。データから確かめる手段としては、クロス集計で条件ごとの割合が揃っているかを見る、その差が偶然の範囲かをカイ二乗検定などの仮説検定で調べる、といった方法が定番です。
落とし穴 — 独立の誤用は二方向に起こる
独立にまつわる失敗は対称的な2パターンがあります。ひとつは従属なのに独立とみなして掛け算する誤りで、冒頭の保険や金融の例のほか、「乳幼児が2人続けて突然死する確率」を単純な2乗で計算した鑑定が冤罪を生んだ英国のサリー・クラーク事件が知られています(兄弟には遺伝・環境という共通要因があり、独立とはみなせません)。もうひとつは独立なのに従属とみなす誤りで、「裏が続いたからそろそろ表」というギャンブラーの誤謬が典型です。どちらの誤りも、「この2つの間に情報の通り道はあるか」を立ち止まって考えることで防げます。独立性とは、突き詰めれば「情報が流れない」ことの数学的表現なのです。
