クロス集計
Cross Tabulation ・ くろすしゅうけい
2つのカテゴリ変数を行と列に取り、組み合わせごとの件数で関係を読む集計法
概要
クロス集計は、2つのカテゴリ変数(性別、購入の有無、都道府県のような「種類」を表す変数)を表の行と列に取り、組み合わせごとの件数を数え上げる集計法です。できあがった表はクロス集計表、統計学では分割表(contingency table)と呼ばれます。「男女別に見た商品Aの購入率」「年代別に見た支持政党の割合」のように、アンケート分析やマーケティングで最も頻繁に使われる分析手法のひとつです。
1つの変数の件数を数える度数分布が「この変数はどんな内訳か」を答えるのに対し、クロス集計はそれを2変数に拡張し、「一方の変数によって、もう一方の内訳が変わるか」という関係の有無を答えます。数値どうしの関係を見る散布図や相関係数に対して、クロス集計はカテゴリどうしの関係を見る基本道具、と位置づけると分かりやすいでしょう。
ExcelやスプレッドシートのピボットテーブルやSQLのGROUP BYで日常的に作られているものは、本質的にすべてクロス集計です。高度な統計手法を使う前に、まずクロス集計表を1枚作って眺める — それだけでデータの関係の骨格が見えてくることが少なくありません。
なぜ生まれたか
19世紀末まで、統計学の関心の中心は身長や収穫量のような「数値」でした。しかし現実の問いの多くは「ワクチンを接種したか/しなかったか」と「発病したか/しなかったか」のように、数値ではなくカテゴリの組み合わせで表れます。カテゴリ変数には平均も相関係数も素直には計算できないため、数値向けの道具がそのまま使えない — この空白を埋めるために、組み合わせの件数を表に整理して関係を読む方法が必要とされました。
これを体系化したのが、20世紀初頭のカール・ピアソンです。彼は分割表という形式を整理するとともに、「もし2つの変数が無関係だったら各セルの件数はいくつになるはずか」という期待値と実際の件数のズレを測るカイ二乗検定を考案しました。これにより、クロス集計は単なる集計表から「関係があると言ってよいか」を統計的に判断できる分析手法へと発展し、仮説検定の最初期の応用例のひとつになりました。
詳細
表の読み方 — 実数ではなく割合で比べる
クロス集計表には、各セルの件数(観測度数)と、行ごと・列ごとの合計(周辺度数)が並びます。ここで最も重要な作法は、セルの実数をそのまま比べないことです。行ごとに人数が違えば、実数の大小は関係の有無を何も語りません。「行の合計を100%とした割合(行パーセント)」に直して、行どうしで割合を比べる — これがクロス集計の基本の読み方です。
図の例では、実数だけ見ると50代の購入者(90人)が20代(60人)より多く、「50代向けの商品だ」と誤読しかねません。しかし行パーセントに直すと購入率は20代30%、50代15%で、関係は逆です。「原因側(説明したい要因)を行に置き、行方向に100%を取り、列の割合を行間で比べる」と覚えておくと、この誤読を避けられます。
関係の有無を検定する — カイ二乗検定
割合の差が見えたとして、それが偶然のばらつきの範囲か、意味のある関係かはどう判断するのでしょうか。ここで使われるのがカイ二乗検定です。発想は単純で、「もし2変数が無関係なら、各セルの件数は周辺度数の掛け合わせから計算できる期待度数になるはず」と考え、実際の観測度数と期待度数のズレの大きさを合計します。ズレが偶然では説明しにくいほど大きければ「関係がある」と判断する — 仮説検定の枠組みそのものです。アンケート分析で「属性と回答に有意な関連があった」と報告されるとき、その裏側ではたいていこの検定が動いています。
3つ目の変数に注意 — シンプソンのパラドックス
クロス集計の有名な落とし穴が、第3の変数を無視したときに起きるシンプソンのパラドックスです。全体のクロス集計では「治療Aの方が治癒率が高い」のに、重症・軽症に分けて集計し直すとどちらの層でも治療Bの方が高い、という逆転が実際に起こり得ます。原因は、隠れた変数(この例では重症度)が行と列の両方に影響しているためです。気になる関係を見つけたら、関連しそうな第3の変数で層別したクロス集計(3重クロス)を作って関係が保たれるか確かめる — これはクロス集計を使ううえで必須の習慣です。
実務での位置づけ
クロス集計はデータの尺度でいう名義尺度・順序尺度の変数に対する主力の分析手法で、数値変数も年代・価格帯のように区切ってカテゴリ化すれば同じ土俵に載せられます。ただし区切り方しだいで見え方が変わるため、区切りの根拠は明示すべきです。また、セルの数が増えるほど1セルあたりの件数が減り、割合が不安定になります。期待度数が5未満のセルが多い表では、カイ二乗検定の近似が崩れるため、カテゴリの統合やフィッシャーの正確検定といった対処が定石です。手軽さゆえに乱造されがちな手法だからこそ、「割合で比べる」「第3の変数を疑う」「セルの件数を確かめる」という3つの規律が結果の信頼性を分けます。
