推測統計●●●●○

カイ二乗検定

Chi-Square Testかいにじょうけんてい

カテゴリデータの偏りや関連を、期待度数とのずれで検定する方法

概要

カイ二乗検定は、カテゴリデータ(血液型、購入した/しない、支持政党など、数値ではなく分類で表されるデータ)の偏りや関連を調べる仮説検定です。平均の比較ができないカテゴリデータでは、代わりに「各カテゴリに何件入ったか」という度数を数えます。カイ二乗検定は、この観測された度数と「もし仮説どおりなら期待される度数」とのずれを1つの数値(カイ二乗統計量)にまとめ、そのずれが偶然の範囲かどうかをカイ二乗分布に照らして判定します。

代表的な使い方は2つあります。1つはサイコロの出目に偏りはないか、ユーザーの流入元の比率は先月から変わっていないか、といった「1つの分布が想定と合っているか」を調べる適合度検定。もう1つは、性別と商品選択、施策の有無とコンバージョンのように「2つのカテゴリ変数の間に関連があるか」をクロス集計表の上で調べる独立性の検定です。アンケート分析やA/Bテストの成果判定など、カテゴリデータを扱う場面での定番中の定番です。

なぜ生まれたか

19世紀末、統計学は「観測された度数の偏りは意味があるのか、偶然か」を判定する一般的な方法を持っていませんでした。観測分布と理論分布のずれはカテゴリの数だけあり、あるカテゴリは多め、別のカテゴリは少なめと、ずれの方向も大きさもバラバラです。この多数のずれを、確率的に評価できる1つの指標にどうまとめるか — これが未解決の課題でした。

カール・ピアソンは1900年、各カテゴリについて「(観測度数 − 期待度数) の2乗 ÷ 期待度数」を計算して足し合わせた量が、標本が十分大きければカイ二乗分布に従うことを示しました。2乗することで正負のずれが打ち消し合わず、期待度数で割ることで「もともと件数が多いカテゴリのずれは大きくて当然」という規模の違いが補正されます。どんなカテゴリ数でも1つの統計量と1つの分布で判定できるこの発明は、史上初の実用的な検定手法のひとつであり、現代の仮説検定という枠組みの出発点になりました。

詳細

期待度数 — 「仮説どおりならこうなるはず」を作る

カイ二乗検定の核心は期待度数の作り方にあります。適合度検定なら、理論比率に総件数を掛けるだけです(公正なサイコロを600回振れば各目の期待度数は100)。独立性の検定では、「2つの変数が独立である(関連がない)」という帰無仮説から期待度数を作ります。クロス集計表の各セルについて「行の合計 × 列の合計 ÷ 総件数」を計算すると、それが「関連がなければこのセルに入るはずの件数」になります。観測度数がこの期待度数から大きく外れているほど、独立という仮説は疑わしくなります。

観測度数購入した購入せず施策あり施策なし6014040160期待度数 — 独立なら購入した購入せず施策あり施策なし5015050150行合計 × 列合計 ÷ 総数 で各セルを計算比べる各セルの ずれの2乗 ÷ 期待度数 を全セルで合計 → カイ二乗統計量カイ二乗分布に照らして p値を求める
独立性の検定 — 観測度数と、独立を仮定した期待度数のずれを測る

図の例では、施策ありの群は期待より10件多く購入しています。各セルのずれを2乗し、期待度数で割って合計した値が、対応する自由度のカイ二乗分布のもとでどのくらい珍しいかをp値として評価します。ずれの2乗を足すという統計量の形が、まさにカイ二乗分布(標準正規変数の2乗和の分布)の成り立ちと対応しています。

自由度 — 表の大きさで物差しが変わる

照らし合わせるカイ二乗分布は自由度で形が変わります。適合度検定の自由度は「カテゴリ数 − 1」、独立性の検定では「(行数 − 1) × (列数 − 1)」です。これは「合計が固定されたとき、自由に動けるセルがいくつあるか」を数えたものです。2×2の表なら、1つのセルの値が決まれば残り3つは行と列の合計から自動的に決まるため自由度は1になります。カテゴリが多い表ほど偶然でもずれの合計は大きくなるので、自由度の大きい(右に伸びた)分布を物差しにして補正するわけです。

前提と落とし穴

カイ二乗検定は標本が大きいときの近似にもとづいており、期待度数が小さいセルがあると近似が崩れます。目安として「期待度数5未満のセルが全体の2割を超えたら注意」がよく知られた基準で、その場合はカテゴリを併合するか、2×2の表なら正確な確率を直接計算するFisherの正確検定を使います。また、各観測が独立に数えられていることが大前提です。同じ人を複数回数えたデータや、対応のある前後比較のデータ(この場合はMcNemar検定が適切)に通常のカイ二乗検定を使うのは典型的な誤りです。

もう1つの重要な注意は、カイ二乗検定が答えるのは「関連があるか」だけで、「関連がどのくらい強いか」ではないことです。総件数を増やせばごく弱い関連でも有意になります。関連の強さはCramérのVやオッズ比といった効果量の指標で別途示すのが作法です。さらに、有意な関連が見つかっても因果を意味しない点は、相関と同じく肝に銘じる必要があります。

実務での位置づけ

カイ二乗検定は、数値の平均を比べるt検定のカテゴリデータ版という位置づけで覚えると全体像が掴みやすくなります。データが名義尺度である限り、アンケートの選択肢の偏り、機械学習の分類結果と属性の関連、ログデータのセグメント間比較など適用範囲は広大です。まずクロス集計表を作って傾向を目で確かめ、それが偶然の範囲かをカイ二乗検定で裏づける — この流れがカテゴリデータ分析の基本形になります。