t検定
t-Test ・ てぃーけんてい
平均の差が偶然の範囲かを、差と標準誤差の比(t値)とt分布で判定する検定
✦ 30秒で試す — 航海差を半分に縮めても、有意にできる方法がある有意に届くには、1群何人要る?予想してみる概要
t検定は、「平均の差」が偶然のばらつきで説明できる範囲か、それとも本物の差とみなすべきかを判定する仮説検定です。新デザインと旧デザインでページ滞在時間の平均は違うか、新薬を飲んだ群と飲まなかった群で血圧の平均は違うか — 「2つの平均を比べる」という場面は実験・調査・A/Bテストの至るところに現れるため、t検定は数ある検定の中で最もよく使われる存在になっています。
考え方の核は「信号 ÷ 雑音」です。観測された平均の差(信号)を、「本当は差がなくても標本の偶然でこのくらいは動く」という揺れの大きさ(標準誤差、雑音)で割ります。この比が t 値で、「差は標準誤差の何個分か」を表します。何個分なら偶然では出にくいと言えるのか——その物差しにt分布を使うことが名前の由来です。
なぜ生まれたか
20世紀初頭までの統計理論は「標本が十分大きい」ことを前提にしていました。標本平均の分布は中心極限定理により正規分布で近似でき、母集団の標準偏差 σ も標本から精度よく見積もれる — しかしこの前提は、ギネスビール社の醸造技師ゴセットが直面した現実と合いませんでした。大麦の品種や醸造条件の実験で使える標本は数個から十数個。小さな標本では σ の推定値そのものが大きくぶれるため、推定した σ を「真の値」とみなして正規分布を物差しに使うと、偶然の範囲を狭く見積もりすぎ、偶然の差を本物と誤認してしまいます。
ゴセットは1908年、σ の推定のぶれまで織り込んだ小標本用の物差しとしてt分布を導き、会社の方針で本名を伏せて「Student」の筆名で発表しました。裾が正規分布より厚いt分布を使えば、標本が小さいときの不確かさを正直に反映した判定ができます。その後フィッシャーが t という記号と2標本の比較への拡張を整え、1925年の著書『研究者のための統計的方法』で農事試験の研究者たちに広めたことで、t検定は「小標本でも使える平均の差の検定」として実験科学の標準装備になりました。
詳細
t値の意味 — 差を標準誤差で割る
独立な2群の比較を例にすると、t 値は「(群Bの平均 − 群Aの平均) ÷ 平均の差の標準誤差」です。分母の標準誤差は、各群の分散を人数で割って足したものの平方根(√(s²_A/n_A + s²_B/n_B))で、データのばらつきが大きいほど大きく、人数が多いほど小さくなります。ここで大事なのは、同じ5点差でも、ばらつきと人数によって意味がまったく変わることです。ばらつきが小さく人数が多ければ5点差は「偶然ではまず出ない差」ですが、ばらつきが大きく人数が少なければ「ノイズの範囲内」にすぎません。
計算した t 値を、自由度(おおよそ人数から決まるパラメータ)に対応するt分布に照らしてp値を求め、有意水準(慣習的に5%)と比べて判定する — というのが手続きの全体です。両側検定で5%水準なら、自由度が十分大きいときの目安は「差が標準誤差の約2個分」(正確には1.96、自由度10なら2.23)。人数が増えるとt分布は正規分布に近づくので、大標本ではz検定とほぼ同じ結果になります。
下の部品で、群の中心とばらつきを直接つかんで動かしてみてください。金色の物差し(差)の下に、標準誤差1個分の目盛りが並びます。ばらつきを広げると目盛りが伸びて、同じ差でも数えられる個数(t)が減ることが分かります。
金色の物差しが2群の平均の差、その下の目盛りが標準誤差(SE)1個分です。差が目盛り何個分かが t 値。群の幅の丸(右端)をつかんで、ばらつきを広げてみてください。
金の丸 = 各群の平均(左右に動かす)。小さい丸 = 平均+1SD(幅を変える)。物差しの目盛り1つ = 平均の差の標準誤差
3つの型 — 1標本・対応あり・対応なし
t検定には場面に応じた3つの型があります。1標本のt検定は、1つの群の平均を既知の基準値と比べます(例: この工場の製品の平均重量は規格の100gと言えるか)。対応のある(paired)t検定は、同じ対象の前後比較や双子のようなペアの比較です(例: 同じ患者の投薬前後の血圧)。各ペアの「差」を取って1標本の検定に帰着させるため、人による違いという大きなばらつきが差し引かれ、同じ人数でも格段に検出しやすくなります。対応のない(独立2標本の)t検定は、別々の2群の平均を比べる最も一般的な型です(例: A/Bテストの2グループ)。どの型を選ぶかはデータの取り方で決まっており、対応のあるデータに独立2標本の検定を使うと、せっかくの対応の情報を捨てて検出力を大きく損ないます。
Studentの方法とWelchの方法
独立2標本のt検定には、2群の分散が等しいと仮定して1つにまとめる古典的なStudentの方法と、等分散を仮定せずに自由度を補正するWelchの方法(1947年)があります。かつては「まず等分散性を検定して、結果に応じて使い分ける」という2段階の手順が教えられましたが、この手順は第一種の過誤の率をかえって歪めることが示されており、現在は最初からWelchの方法を使うのが実務の標準です。等分散が成り立つ場合でもWelchの損はごくわずかで、群の人数と分散がそろっていないときの頑健さが大きく勝ります。
注意したいのは、ソフトウェアによって既定値が違うことです。R の t.test は Welch が既定(var.equal = FALSE)ですが、Python の SciPy の ttest_ind は Student が既定(equal_var=True)で、Welch にするには equal_var=False を明示する必要があります。Excel の T.TEST も引数で型を選ぶ方式です。「どちらの方法で計算したか」は報告に明記しましょう。
前提と、崩れたときの代替
t検定が正しく機能する前提は、(1) 観測が互いに独立であること、(2) 平均の標本分布がおおよそ正規であること、の2つです。(2) は「データそのものが正規分布」という意味ではなく、人数がある程度あれば中心極限定理によってかなり緩和されます。深刻なのは (1) の崩れです。同じユーザーの複数回の購買や、同じ教室の生徒のように「かたまり」で似た値が出るデータを独立な観測として数えると、実質の情報量より人数を多く見積もることになり、標準誤差が小さく出て偽陽性が増えます。これは人数を増やしても直りません。かたまりごとに平均してから比べるか、かたまりを考慮したモデルを使います。
分布の歪みや外れ値が激しく、しかも人数が少ない場合には、順位にもとづくノンパラメトリック検定(Mann–Whitney U検定など)や、再標本化で分布の仮定を避けるブートストラップ法が代替になります。比べる群が3つ以上になったら、t検定を組み合わせの数だけ繰り返すのではなく分散分析を使います。検定を繰り返すほど第一種の過誤(差がないのに差ありと誤る確率)が積み上がる多重比較の問題があるからです。
実務の落とし穴
よくある誤りを整理しておきます。第一に、片側検定か両側検定かはデータを見る前に決めるものです。結果を見てから「片側なら有意」と切り替えると、実質的に有意水準を2倍に緩めたことになります。第二に、グラフのエラーバーが標準偏差(SD)なのか標準誤差(SE)なのかを取り違えないこと。t 値の分母は SE で、SD よりずっと小さくなります。第三に、「有意でない」は「差がない」ではありません。人数が少なければ本物の差も t が2に届かず見逃されます(検出力の問題)。
そして最後に、「有意差あり」は「意味のある大きさの差」を保証しません。人数を増やせば標準誤差はいくらでも小さくなり、どんな微小な差でもいずれ有意になります。平均0.1点の差が統計的に有意でも、実務上は無視してよいかもしれません。だからこそ、p値と併せて差の大きさそのものを効果量(Cohen の d など)で報告し、信頼区間で差の推定幅を示すことが推奨されています。
試問
2つの群の平均の差が、偶然の揺れでは説明しにくいほど大きいかを t 検定で判定します。t 値は「平均の差 ÷ 標準誤差(差の揺れの目安)」で、画面では差の物差しの下に標準誤差1個分の目盛りが並びます。群の平均(金の丸)、ばらつき(小さい丸)、1群の人数を動かせます(平均の差は「差を 1 縮める」ボタンでも変えられます)。はじめは差 13、SD 12、各群 15 人です。
金色の物差しが2群の平均の差、その下の目盛りが標準誤差(SE)1個分です。差が目盛り何個分かが t 値。群の幅の丸(右端)をつかんで、ばらつきを広げてみてください。
金の丸 = 各群の平均(左右に動かす)。小さい丸 = 平均+1SD(幅を変える)。物差しの目盛り1つ = 平均の差の標準誤差
