推測統計●●●●●

ノンパラメトリック検定

Nonparametric Tests ・ のんぱらめとりっくけんてい

正規性など分布の仮定を置かず、順位にもとづいて差を検定する方法群

✦ 30秒で試す — 航海差をもっと大きくしたら、有意でなくなることがあるB群の最大の点を74から200へ引き離すと、どうなる?予想してみる

概要

ノンパラメトリック検定は、「データが正規分布に従う」といった分布の形の仮定を置かずに差や関連を調べる仮説検定の総称です。t検定や分散分析は、母集団の分布を平均や分散といった少数のパラメータで表せると仮定して組み立てられています(パラメトリック検定)。ノンパラメトリック検定はこの仮定を外し、多くの場合、値そのものの代わりに「順位」を使って検定します。

順位を使うという発想の威力は、値の絶対的な大きさに引きずられないことです。たとえば所得のように右に大きく歪んだデータや、外れ値を含むデータ、あるいは「大変満足〜大変不満」のようなそもそも間隔に意味のない順序尺度のデータでも、順位の情報だけで安全に検定できます。臨床研究の少数例データやアンケートの満足度比較など、パラメトリック検定の前提が怪しい場面での頼れる代替手段です。

なぜ生まれたか

20世紀前半に整備されたt検定や分散分析は強力でしたが、その正当性は正規性の仮定に寄りかかっていました。標本が大きければ中心極限定理が助けてくれますが、標本が小さく分布が歪んでいる場合、検定結果がどこまで信用できるかは不明です。さらに、順序尺度のデータには平均を計算すること自体に無理があります。「分布の形が分からなくても成り立つ検定はできないか」という問題意識が、1930〜40年代に一連の手法を生みました。

鍵になったのは、値を順位に置き換えるアイデアです。帰無仮説のもとでは、どの順位の並びも同じ確率で起こります。つまり順位の統計量の分布は、元のデータがどんな分布でも組合せ論だけで正確に計算できるのです。1945年にウィルコクソンが順位和検定と符号付き順位検定を、1947年にマンとホイットニーがその一般化を発表し、「分布によらない検定」という新しい系譜が確立しました。

詳細

順位に置き換えると何が起きるか

2群を比べる場面で考えます。両群のデータを混ぜて小さい順に順位を振り、片方の群の順位の合計を見る — もし2群に差がなければ、大きい値も小さい値も両群に均等に散らばるはずなので、順位の合計は「半々」に近くなります。片方の群に大きい順位が偏っていれば、分布がずれている証拠です。この順位和のずれの珍しさを評価するのがWilcoxonの順位和検定(Mann-Whitney U検定と実質同じもの)です。

生の値の世界外れ値1つの極端な値が平均と分散を大きく引きずり、t検定の結果を左右する順位の世界1位2位3位4位5位6位7位どれほど極端な値でも「いちばん大きい」という順位情報に丸められる順位にもとづく検定は、外れ値1つで結論がひっくり返らないA群B群B群の外れ値(値の世界では遠く、順位では「7位」)
外れ値の影響 — 値の比較は引きずられるが、順位の比較はほとんど動じない

下の部品で、緑の群のいちばん大きい点をつかんで右へ遠く引っぱってみてください。値の世界では平均と標準偏差が引きずられて t検定 の p 値が大きく揺れますが、順位の世界ではその点はずっと「20位」のままなので、Mann–Whitney 検定の p 値は1ミリも動きません。逆に左へ動かして他の点を追い越したときだけ、順位法の p 値も動きます。

⚡ 体験: 値を引っぱっても、順位は動じない
A 群B 群順位(小さい順)1234567891011121314151617181920t 検定(Welch)0.004Mann–Whitney U0.005
B の最大値74平均の差14.9t 検定 p0.004U(B が上回る組)86 / 100Mann–Whitney p0.005

緑(B 群)のいちばん右の点をつかんで右端まで引っぱってください。上段は値、下段はその順位です。2つの検定の p 値がどう動くかを見比べます。

上段: 値(白 = A 群、緑 = B 群、破線 = 各群の平均)。下段: 20点を混ぜて小さい順に振った順位。メーターは p 値(対数目盛り、赤線 = 0.05、左ほど有意)

代表的な手法とパラメトリック検定との対応

ノンパラメトリック検定は、パラメトリック検定との対応表で覚えるのが近道です。独立2群の比較なら t検定に対して Mann-Whitney U検定。対応のある前後比較なら対応のあるt検定に対して Wilcoxonの符号付き順位検定(差の絶対値に順位を振り、符号ごとの順位和を比べます)。3群以上の比較なら分散分析に対して Kruskal-Wallis検定。2変数の関連なら Pearsonの相関係数に対して、順位同士の相関を取る Spearmanの順位相関係数です。さらに素朴な 符号検定 は、前後比較で「増えたか減ったか」の符号だけを数えて二項分布で判定する、仮定が最少の検定です。

何を検定しているのか — 平均ではないことに注意

見落とされがちな点ですが、順位にもとづく検定の帰無仮説は「平均が等しい」ではありません。Mann-Whitney U検定が本来調べるのは「一方の群からの値がもう一方より大きくなりやすいか」という確率的な優劣で、分布の形が2群で同じと仮定できる場合に限り「中央値のずれの検定」と解釈できます。中央値は分位数の代表(50%点)であり、歪んだ分布では平均(代表値の一種)より実態を表すことが多いため、この解釈のずれはむしろ長所になることもあります。ただし「t検定の代わりに使ったのに、報告では平均の差を論じる」といった不整合は避ける必要があります。

もう一つの落とし穴は、2群の散らばりが大きく違う場面です。Mann-Whitney 検定の p 値は「2群の分布がまったく同じ」という帰無仮説のもとで計算されます。そのため、中央値や「上回る確率」が等しくても、一方だけ散らばりが大きい(とくに人数も違う)と帰無分布の見積もりがずれ、偽陽性率が名目の5%から外れます。t 検定における Student 法の弱点と同じ構図です。分散の違いに頑健なまま「上回る確率は50%か」を調べたいならブルンナー・ムンツェル検定、平均の差を知りたいなら Welch の t 検定が問いに合っています。順位法は「仮定がいらない」のではなく「別の問いに、別の仮定で答えている」と理解するのが正確です。

報告には p 値だけでなく効果量も添えます。Mann-Whitney U検定なら、U を組の総数(n₁ × n₂)で割った値がそのまま「一方の群の値がもう一方を上回る確率」(共通言語効果量、ROC曲線の AUC と同じもの)になり、これを 2 倍して 1 を引いた順位双列相関 r もよく使われます。どちらも「差の大きさ」を順位の言葉で表したもので、効果量の順位版です。

検出力とのトレードオフ

仮定を減らすことには対価があります。正規性が実際に成り立っている状況では、順位への変換で値の細かい情報を捨てるぶん、同じ差を見つけるのにやや多くの標本が必要です(検出力がわずかに低い)。とはいえその差は意外に小さく、正規分布のもとでのMann-Whitney U検定の効率はt検定の約95%あることが知られています。一方、分布が歪んでいたり裾が重かったりする状況では立場が逆転し、ノンパラメトリック検定のほうが検出力で勝ることも珍しくありません。「仮定が崩れたときの保険料としては格安」というのが実務的な評価です。

使いどころの整理と現代の広がり

選択の目安はこう整理できます。データが順序尺度なら最初からノンパラメトリック一択。連続データでも、標本が小さく分布の歪みや外れ値が明らかなら順位法が安全です。逆に標本が十分大きく分布も素直なら、解釈のしやすさ(平均と信頼区間で語れること)でパラメトリック検定に分があります。なお「ノンパラメトリック」の発想は順位法にとどまらず、観測データのラベルを繰り返し入れ替えて帰無分布を直接作る並べ替え検定や、再抽出で推定のぶれを見積もるブートストラップ法など、計算機の力で分布の仮定を回避する現代的手法へと広がっています。これらはモンテカルロ法的なシミュレーションの考え方と地続きで、仮定の少ない推測という同じ精神を受け継いでいます。

試問

A 群と B 群(各10点)の差を、2つの検定で調べます。t 検定は値そのものから平均の差を測り、Mann–Whitney 検定は20点を小さい順に並べた順位だけを使います。はじめはどちらも有意(p < 0.05。偶然とは言いにくい差)です。動かせるのは、B 群のいちばん大きい点だけです。

✦ 命題挑戦中

B 群をさらに「大きく」しながら、t 検定だけを有意でなくせよ(Mann–Whitney は有意のまま)

  • B 群の最大の点を、元の 74 より大きくする(B 群をさらに大きくする)
  • t 検定(Welch)の p が 0.05 以上になる
  • Mann–Whitney の p は 0.05 未満のまま
⚡ 体験: B 群の最大の点をつかんで動かす
A 群B 群順位(小さい順)1234567891011121314151617181920t 検定(Welch)0.004Mann–Whitney U0.005
B の最大値74平均の差14.9t 検定 p0.004U(B が上回る組)86 / 100Mann–Whitney p0.005

いまは t 検定も Mann–Whitney も有意(p < 0.05)です。動かせるのは緑(B 群)のいちばん右の点だけ。上段は値、下段はその順位です。

上段: 値(白 = A 群、緑 = B 群、破線 = 各群の平均)。下段: 20点を混ぜて小さい順に振った順位。メーターは p 値(対数目盛り、赤線 = 0.05、左ほど有意)