分散分析
Analysis of Variance ・ ぶんさんぶんせき
3群以上の平均差を、群間と群内のばらつきの比で一度に検定する方法
概要
分散分析(ANOVA)は、3つ以上の群の平均に差があるかを一度に調べる仮説検定です。3種類の肥料で作物の収量は違うか、4つの広告案でクリック率は違うか — 群が3つ以上になるとt検定では手に負えなくなり、分散分析の出番になります。
名前は「分散」分析ですが、調べたいのはあくまで「平均の差」です。データ全体のばらつき(分散)を「群の平均同士の違いによるばらつき(群間変動)」と「同じ群の中でのばらつき(群内変動)」に分解し、その比(F値)を見る — 群間のばらつきが群内のばらつきに比べて十分大きければ、群の平均には本物の差があると判断します。ばらつきの分解を通して平均を検定する、という一捻りが名前の由来です。
なぜ生まれたか
素朴に考えると、3群 A・B・C の比較は「AとB」「BとC」「AとC」の3回のt検定でできそうです。しかしこの方法には深刻な欠陥があります。1回の検定で偶然に有意となる確率(第一種の過誤)を5%に抑えても、3回繰り返せば「少なくとも1回は誤る」確率は約14%に膨らみます。群が増えるほど組み合わせは急増し、10群なら45回の検定で誤検出の確率は9割を超えます。「どれか1つくらいは偶然に有意になる」状態で検定する意味はありません。
この問題を解決したのが、1920年代にロザムステッド農事試験場で農業実験を分析していたフィッシャーです。品種・肥料・区画など多くの要因が絡む実験データに対し、全体のばらつきを要因ごとに分解し、「すべての群の平均は等しい」という1つの帰無仮説をたった1回の検定で判定する枠組みを作りました。検定回数が1回なら過誤の確率は膨らみません。分散分析は実験計画法(実験の割り付けを工夫して因果を正しく読む方法論)と対になって発展し、農学・医学・心理学から製造業の品質改善まで、実験データ解析の背骨になりました。
詳細
ばらつきの分解 — 群間と群内
一元配置分散分析(要因が1つの最も基本的な型)の仕組みを追ってみます。まず全データの平均(総平均)からの各データのずれを、2つの成分に分けます。1つは「その群の平均が総平均からどれだけ離れているか」(群間変動)、もう1つは「各データがその群の平均からどれだけ離れているか」(群内変動)です。ずれの2乗和で測ると、全体の変動はこの2つの和にきれいに分解できます。
群間変動・群内変動をそれぞれの自由度で割って「1自由度あたりのばらつき(平均平方)」に直し、その比を取ったものがF値です。もしすべての群の平均が本当に等しいなら、群間のばらつきも群内のばらつきも同じ偶然誤差を反映するだけなので、F値は1前後になります。逆に群の平均に本物の差があれば、群間のばらつきだけが膨らんでF値は1を大きく超えます。このF値をF分布(帰無仮説のもとでF値が従う分布)に照らしてp値を求めるのがF検定で、分散分析の判定エンジンです。
有意だったら次に何をするか — 多重比較
分散分析が答えるのは「どこかに差がある」ということだけで、「どの群とどの群が違うのか」は教えてくれません。そこで有意になった後に、TukeyのHSD法やBonferroni法といった多重比較の手続きでペアごとの差を調べます。これらは検定を繰り返しても全体の過誤率が5%を超えないように各判定を調整したもので、「まず分散分析で全体を見て、有意なら多重比較で場所を特定する」という2段構えが定番の流れです。
二元配置と交互作用
要因が2つある実験 — たとえば肥料の種類と水やりの頻度 — では二元配置分散分析を使います。全体の変動を「肥料の効果」「水やりの効果」、そして「交互作用」に分解できるのがこの型の強みです。交互作用とは、片方の要因の効果がもう片方の水準によって変わること(肥料Aは多水やりでのみ効く、など)で、要因を1つずつ調べる実験では決して見つけられません。複数要因を同時に振って交互作用まで検出できることが、フィッシャー流の実験計画の真価です。
前提、頑健性、代替手段
分散分析の前提は t検定とほぼ同じで、観測の独立性、各群の母集団のおおよその正規性、そして各群の分散が等しいこと(等分散性)です。正規性のずれには比較的頑健ですが、群ごとの標本サイズが大きく異なるときの等分散性の崩れには弱くなります。その場合は等分散を仮定しないWelch流の分散分析が使えます。分布の歪みや外れ値が深刻なら、順位にもとづくノンパラメトリック検定のKruskal-Wallis検定が代替になります。また有意性だけでなく、群の違いが全体の変動の何割を説明するかを表すイータ2乗などの効果量を添えるのが現代の作法です。
回帰分析との地続きの関係
最後に視界を広げると、分散分析は線形回帰と同じ「一般線形モデル」という枠組みの特殊ケースです。群をダミー変数(所属を0/1で表す変数)にした回帰モデルを当てはめると、その全体のF検定は一元配置分散分析と完全に一致します。歴史的な出自と用語が違うだけで、数学的には地続きなのです。この見方を知っておくと、共変量(年齢などの連続的な調整変数)を加えた共分散分析(ANCOVA)や、さらに一般のモデルへの拡張が自然に理解できるようになります。
