確率・分布●●○○○

正規分布

Normal Distribution ・ せいきぶんぷ

平均を中心に左右対称の釣鐘型をした、統計学で最も重要な確率分布

✦ 30秒で試す — 航海180cm超が2.3%、160cm未満が16%。平均は何cm?この集団の平均身長は?予想してみる

概要

正規分布は、平均を中心に左右対称の釣鐘型(ベルカーブ)をした確率分布です。誤差論で大きな役割を果たしたガウスの名を取ってガウス分布とも呼ばれますが、最初にこの曲線を導いたのはド・モアブルです。平均のまわりに値が集中し、平均から離れるほど急速に珍しくなる — 身長、測定誤差、多数の要因が重なって決まる量の多くが、この形に近い分布を示します。

正規分布の際立った特徴は、形が「平均 μ」と「標準偏差 σ」のたった2つのパラメータで完全に決まることです。μ が曲線の中心の位置を、σ が山の広がり具合を決めます。つまり平均と分散と標準偏差さえ分かれば、「ある範囲に値が収まる確率」をすべて計算できてしまいます。

統計学において正規分布は「最も重要な分布」と言い切ってよい存在です。自然界に多く現れるからというだけでなく、中心極限定理によって「標本平均の分布は元のデータの形によらず正規分布に近づく」ことが保証されており、推測統計の理論の多くが正規分布を足場に組み立てられているからです。

なぜ生まれたか

正規分布の起源は、18〜19世紀の天文学における観測誤差の問題です。同じ天体を何度観測しても値は毎回少しずつ異なります。誤差はどんなパターンでばらつくのか。小さい誤差は頻繁に、大きい誤差は稀に、そしてプラス方向とマイナス方向は対称に起こる — この経験的事実を数式で表す「誤差の法則」の探求が、正規分布の曲線にたどり着きました。最初に曲線を導いたのはド・モアブルで、1733年、コイン投げの回数のような二項分布の確率を、試行回数が大きいときに近似する式として得ました。1809年、ガウスは「観測値の平均が最も確からしい推定になるためには、誤差はこの分布に従っていなければならない」という論法で誤差の分布としてこれを導き、最小二乗法の根拠づけに使いました。続いてラプラスが、多数の誤差の和がこの形に近づくことを示して理論的基盤を整えました。

その後19世紀に、ケトレーが人間の身長や胸囲といった社会・生物データにも同じ釣鐘型が現れることを示し、正規分布は「誤差の法則」から「自然と社会に遍在する分布」へと格上げされました。19世紀後半にはゴルトンやピアソンがこの曲線を normal curve(普通の・標準の曲線)と呼ぶようになり、いまの名前が定着しました。なぜ遍在するのかという謎への答えが後の中心極限定理で、「独立な小さい偶然が多数足し合わさった量は正規分布に近づく」ことが証明され、遍在の理由に理論的な裏付けが与えられました。

詳細

68-95-99.7ルール — σを使った読み方

正規分布の実用上の要は、標準偏差 σ を単位にした確率の経験則です。値が平均 ±1σ の範囲に収まる確率は約68%(68.3%)、±2σ なら約95%(95.4%)、±3σ なら約99.7%。この「68-95-99.7ルール」を覚えておくだけで、正規分布に近いデータの読み方が一変します。「平均から2σ以上外れた値は、20回に1回程度しか起きない珍しさだ」と即座に見積もれるからです。

34.1%34.1%13.6%13.6%2.1%2.1%μ−1σ+1σ−2σ+2σ−3σ+3σ±1σ に 68.3%±2σ に 95.4%±3σ に 99.7%確率密度平均 μ(頂上)変曲点(μ±σ)
正規分布と68-95-99.7ルール — 平均±1σに約68.3%、±2σに約95.4%、±3σに約99.7%が収まる(曲線と塗りは計算値)

この読み方は実務のあちこちに埋め込まれています。偏差値70(平均+2σ)は上位約2%という換算、製造業の品質管理で「3σを超えたら異常」とみなす管理図、「シックスシグマ」という品質活動の名前 — すべてこのルールの応用です。

曲線の形を見分けるコツは2点です。頂上の位置が μ、そして山の肩で曲がり方が「下に凸」から「上に凸」へ切り替わる点(変曲点)が、ちょうど μ±σ の位置にあります。頂上と変曲点をつかんで μ と σ を動かし、形がどれだけ変わっても帯の割合が変わらないことを確かめてみてください。

⚡ 体験: 頂上と変曲点をつかんで正規分布を動かす
68.3%13.6%13.6%2.1%2.1%±1σ に 68.3%±2σ に 95.4%±3σ に 99.7%μμ+σ
頂上 = μ変曲点 = μ+σ
μ162.0 cmσ7.0 cm±1σ の範囲155.0〜169.0その割合68.3%

山の頂上の丸をつかむと平均 μ が、右肩の変曲点の丸(μ+σ の位置)をつかむと標準偏差 σ が動きます。形を大きく変えても、下の帯の割合の数字がどうなるか見ていてください。

金の帯: 濃い順に μ±1σ・±2σ・±3σ。下の括弧の割合は、μ と σ をどう動かしても変わらない

標準正規分布とzスコア

どんな正規分布も、「平均を引いて標準偏差で割る」という変換(標準化)で、平均0・標準偏差1の「標準正規分布」に揃えられます。変換後の値はzスコアと呼ばれ、「平均から標準偏差何個ぶん離れているか」を表します。身長でもテストの点でも、zスコアに直せば同じ1枚の分布表で確率を引ける — かつて統計の教科書の巻末に必ず載っていた標準正規分布表は、この性質を利用したものです。異なる尺度のデータを比較可能にするこの発想は、機械学習の特徴量スケーリングにも受け継がれています。

推測統計の足場として

正規分布が「最も重要」とされる決定的な理由は、中心極限定理にあります。元のデータがどんな分布でも、母集団と標本の関係で標本平均を考えると、標本サイズが大きくなるにつれてその分布は正規分布に近づきます。つまり個々のデータが正規分布でなくても、「平均の推定」の誤差は正規分布で扱える。これにより、信頼区間の「95%信頼区間は推定値 ±約2×標準誤差」という定番の計算や、仮説検定のz検定・t検定が成立します(標本が小さく σ も推定するときは、正規分布より裾の重いt分布を使います)。また回帰分析でも、誤差が正規分布に従うという仮定が推定と検定の理論を支えています。

「何でも正規分布」という落とし穴

一方で、現実のデータを何でも正規分布とみなすのは危険です。所得や都市の人口のように右に長い裾を引く分布(対数正規分布やべき乗則に近いもの)、株価の変動のように極端な値が正規分布の想定よりずっと頻繁に起きる分布(ファットテール)は珍しくありません。正規分布の裾は非常に速く細るので、±3σ を超える確率は約0.3%、±5σ なら約0.00006%(およそ170万回に1回)です。正規分布を仮定したモデルはこうした事象を「ほぼ起きない」と扱いますが、ファットテールな現実では「めったに起きないはずの暴落」が繰り返し起きてきました。

よくある誤解がもう2つあります。1つは「データそのものが正規分布でないと統計手法が使えない」という思い込みです。t検定や回帰分析で必要なのは多くの場合、平均の推定量や誤差の分布が正規分布で近似できることで、標本が大きければ中心極限定理がそれを支えてくれます。もう1つは逆向きで、「平均と標準偏差さえ分かれば、±2σ に95%が入る」と、正規分布でないデータにこのルールを当てはめることです。歪んだ分布や二山の分布では、この割合は大きく外れます(どんな分布でも保証されるのは、チェビシェフの不等式による「±2σ に少なくとも75%」までです)。

正規分布は強力な近似であって自然法則ではない — データの形をヒストグラムやQ-Qプロット(残差分析とモデル診断を参照)で確かめてから仮定を置く、という手順を省かないことが、正規分布と正しく付き合うコツです。

試問

身長の分布を正規分布の山で表します。山の頂上の丸で平均 μ が、右肩の変曲点の丸(μ+σ の位置。σ は標準偏差=ばらつきの幅)で σ が動きます。頂上と変曲点をつかむか、下のボタンで μ を 1cm・σ を 0.5cm ずつ動かして形を決めてください。「値の位置を測る」で、ある身長より上の割合を確かめられます。

✦ 命題挑戦中

180 cm より高い人が約 2.3%、165 cm より低い人が約 16% になる身長の正規分布を作れ

  • 180 cm より高い人が 約 2.3%(1.5〜3.2%)
  • 165 cm より低い人が 約 16%(12〜20%)
⚡ 体験: 頂上と変曲点をつかんで正規分布を動かす
68.3%13.6%13.6%2.1%2.1%±1σ に 68.3%±2σ に 95.4%±3σ に 99.7%μμ+σ
頂上 = μ変曲点 = μ+σ
μ162.0 cmσ7.0 cm±1σ の範囲155.0〜169.0その割合68.3%

山の頂上の丸をつかむと平均 μ が、右肩の変曲点の丸(μ+σ の位置)をつかむと標準偏差 σ が動きます。形を大きく変えても、下の帯の割合の数字がどうなるか見ていてください。

金の帯: 濃い順に μ±1σ・±2σ・±3σ。下の括弧の割合は、μ と σ をどう動かしても変わらない