歪度と尖度
Skewness and Kurtosis ・ わいどとせんど
分布の左右非対称の度合いと裾の重さを、標準化した値の3乗・4乗の平均で数値化する指標
✦ 30秒で試す — 航海右の裾を縮めたら、裾の重さを測る数が増えたこの点数の分布の歪度は?予想してみる概要
歪度(わいど)と尖度(せんど)は、分布の「形」を数値で表す指標です。平均が分布の位置を、分散と標準偏差が広がりの大きさを教えてくれるのに対し、歪度は「分布が左右どちらに裾を引いているか」、尖度は「極端な値がどれくらい出やすいか(裾の重さ)」を教えてくれます。位置・広がり・形という3段階の要約の、いちばん奥にある指標です。
基準になるのは正規分布です。正規分布は左右対称なので歪度は0、尖度は3(これを基準0に読み替えた超過尖度では0)です。実データの歪度・尖度がそこから離れていれば、「このデータは正規分布とは形が違う」というシグナルになります。年収のように右へ長い裾を引くデータ、株価の収益率のように極端な変動が想定より頻繁に起きるデータ——こうした正規分布からのずれを、ヒストグラムの目視だけでなく数値として押さえるのが歪度と尖度の役割です。
なぜ生まれたか
19世紀末、統計学が扱うデータは天文学の観測誤差から生物や社会のデータへと広がり、「現実の分布は正規分布の釣鐘型に収まらない」ことが明らかになってきました。生物測定学のカール・ピアソンは1890年代から、非対称な分布や裾の重い分布を体系的に扱うための分布族と、形を捉える指標を整備します。その道具がモーメント(平均からの距離の n 乗の平均)で、2乗が分散、3乗が非対称性(歪度)、4乗が裾の重さ(尖度)に対応します。平均と分散だけでは同じに見える分布どうしを、形で区別できるようにしたのです。
この指標が実務で重要になったのは、多くの統計手法が正規分布を前提に組み立てられているからです。前提が崩れていれば結論も怪しくなります。歪度と尖度は「その手法を使ってよいデータか」を事前に点検する、いわば健康診断の数値として生まれ、使われ続けています。
詳細
歪度 — 3乗が左右の偏りを拾う
歪度は、各値を標準化した z(平均から標準偏差何個ぶん離れているか)を3乗し、平均したものです。3乗すると符号が残るので、平均より右の値はプラス、左の値はマイナスとして効きます。しかも3乗は遠い値ほど急激に大きくなるので、z = 1 の値の寄与は 1、z = 3 の値の寄与は 27 です。左右対称なら両側の寄与が打ち消し合って0になり、右へ長い裾を引く分布(年収や住宅価格が典型)では、右の遠い値の大きな3乗が勝って歪度はプラスになります。これを「右に歪んだ分布」「正の歪み」と呼びます。簡単な試験の点数のように高得点側に山があり低得点側へ裾が伸びる分布では、歪度はマイナスです。
歪度は代表値の選び方と結びつきます。右に歪んだ分布では、裾の大きな値に引きずられて平均が中央値より大きくなりやすく、「平均年収」が実感より高く感じられるのはこのためです。こうした分布の代表値には中央値のほうが向いています。ただし「歪度がプラスなら平均 > 中央値 > 最頻値」という並びは、なめらかな単峰の分布でよく成り立つ経験則にすぎません。値がとびとびの離散分布や山が2つある分布では、歪度の符号と平均・中央値の大小が食い違う例が知られています。符号だけで判断せず、ヒストグラムで形を確かめるのが確実です。
尖度 — 4乗が裾の数点を拾う
尖度は、標準化した z の4乗の平均です。4乗の効き方はさらに極端で、z = 1 の寄与は 1、z = 2 で 16、z = 4 では 256 になります。平均の近くの値はほとんど何も寄与せず、平均から遠い一握りの値だけが合計を決めます。つまり尖度の実体は、名前が連想させる「山のてっぺんの尖り」ではなく「裾の重さ」——極端な値の出やすさ——です。正規分布の尖度は3で、これを引いた値を超過尖度と呼びます。超過尖度がプラスの分布は、正規分布より極端な値が頻繁に出る「裾の重い(ファットテールな)」分布です。
図の2つの分布は、平均も分散もまったく同じです。裾の重い分布(t分布を分散1に縮めたもの)は中心が高く、肩で正規分布を下回り、裾で再び上回ります。分散を揃えたまま裾に確率を回すと、その分だけ中心にも確率が寄るので、「尖って見える」のは裾が重いことの副産物です。実際、山頂が平らなのに尖度が大きい分布も作れます。そして違いが効いてくるのは裾で、3SD を超える確率は約4倍になっています。
上の列の右端の点(金の丸)をつかんで、右へ引っぱってください。下の棒は各点の「標準化した偏差の3乗」で、その平均が歪度です。
上: 50 点のデータ(金の線 = 平均、灰の線 = 中央値)。下: 各点を標準化した値 z の3乗(または4乗)の棒。棒の平均が歪度(尖度)
部品で右端の点を引っぱると、z の3乗の棒のうち右端の数本だけが巨大化し、歪度をほぼ独占するのが見えます。4乗に切り替えると、遠い5点ほどで尖度の大部分が決まっていることが分かります。歪度と尖度は、分布全体の形というより、裾にある少数の値の大きさを測っている指標なのです。
実務での使いどころと注意点
実務での典型的な使い方は、分析の前の点検です。度数分布のヒストグラムで形を目視しつつ、歪度・尖度の数値で正規分布からのずれの度合いを確認します。歪度の絶対値が1を超えるようなら明確な非対称とみなし、対数変換で歪みを縮める、中央値ベースの要約に切り替える、といった対処を検討します。年収のように対数を取ると釣鐘型になるデータは対数正規分布に近く、対数変換がよく効きます。歪度と尖度を組み合わせた正規性の検定(ジャック=ベラ検定など)もあり、仮説検定の前提チェックに使われます。
注意すべきは、部品で見たとおり、歪度・尖度が外れ値に極めて敏感なことです。たった1つの極端な値で数値が激変するため、標本が小さいときの歪度・尖度はあまり当てになりません。さらに、裾がきわめて重い分布では、理論上の歪度や尖度がそもそも存在しない(無限大になる)ことがあります。自由度4以下の t分布の尖度や、所得や都市人口に現れるべき乗則の分布の多くがそうです。そのようなデータから標本の尖度を計算すると、データを足すたびに値が大きく跳ね、いつまでも落ち着きません。
最後に、ソフトによって計算式が違う点にも気をつけます。標本の歪度には、モーメントをそのまま使う式と、小さい標本での偏りを補正する式(Excel の SKEW 関数や多くの統計ソフトの既定はこちら)があり、尖度も Excel の KURT 関数は補正した超過尖度(正規分布で0)を返します。数十件程度のデータでは式の違いで値が目に見えて変わるので、比べるときは同じ式どうしで比べます。数値だけを鵜呑みにせず、必ずヒストグラムや箱ひげ図と併せて形を確かめる——位置・広がり・形のどの指標にも共通する「図と数値の両輪」の原則が、ここでも生きています。
試問
はじめは左右対称に並んだ50点のデータです。右端の点(金の丸)をつかんで左右に動かすと、分布の右の裾が伸び縮みします。下の棒は各点を標準化した値 z の3乗または4乗で、その平均が歪度(左右の偏り)・尖度(裾の重さ。正規分布なら 3)です。動かせるのは右端の点と、棒の3乗・4乗の切り替えだけです。
上の列の右端の点(金の丸)をつかんで、右へ引っぱってください。下の棒は各点の「標準化した偏差の3乗」で、その平均が歪度です。
上: 50 点のデータ(金の線 = 平均、灰の線 = 中央値)。下: 各点を標準化した値 z の3乗(または4乗)の棒。棒の平均が歪度(尖度)
