記述統計●●●○○

箱ひげ図

Box Plotはこひげず

四分位数で分布を5つの値に要約し、複数グループのばらつきを一目で比較する図

概要

箱ひげ図は、データの分布を「最小値・第1四分位数(Q1)・中央値・第3四分位数(Q3)・最大値」の5つの数(5数要約)に圧縮し、箱とひげで描く図です。箱の両端がQ1とQ3、箱の中の線が中央値、箱から伸びるひげが分布の裾を表します。1本の細長い図に、中心の位置・ばらつき・歪み・外れ値の有無までが詰め込まれています。

箱ひげ図の真価は「比較」にあります。ヒストグラムは1つの分布をじっくり観察するのに向きますが、5つも10もの分布を重ねると読めなくなります。箱ひげ図なら、店舗別の売上、月別の気温、実験条件別の測定値といった多グループの分布を横に並べて、一目で比べられます。「どのグループが高いか」だけでなく「どのグループがばらついているか」「どこに外れ値が潜むか」まで同時に見えるのが、平均値の棒グラフとの決定的な違いです。

分位数という順位ベースの要約を土台にしているため、分布が歪んでいても、極端な値が混じっていても、破綻せずに機能します。

なぜ生まれたか

箱ひげ図は統計図表としては新しく、統計学者ジョン・テューキーが1970年代に広めたものです。テューキーは、仮説を検証する前にまずデータそのものを眺めて構造や異常に気づくべきだ、という探索的データ分析(EDA)を提唱した人物です。当時すでにヒストグラムはありましたが、階級幅の選び方に恣意性があり、描くのに手間がかかり、何より多グループの比較に不向きでした。電卓と方眼紙の時代に、「手早く描けて」「恣意的なパラメータがなく」「並べて比較できる」分布の要約図が必要だったのです。

テューキーの解答が、四分位数という頑健な統計量だけから機械的に描ける箱ひげ図でした。5つの数を拾って箱とひげを引くだけなので手計算でも数分で描け、階級幅のような裁量の余地がありません。さらに彼は「Q1 − 1.5×IQR から Q3 + 1.5×IQR の範囲を外れたら外れ値候補として個別に打点する」という規則を組み込み、分布の要約と異常値の検出をひとつの図に統合しました。データを疑い、まず眺める — EDAの思想がそのまま図になったのが箱ひげ図です。

詳細

図の読み方 — 5つの数と外れ値のルール

箱ひげ図の各部品は次のように決まります。箱はQ1からQ3まで、つまりデータの中央50%を覆います。この箱の長さが四分位範囲(IQR = Q3 − Q1)で、ばらつきの頑健な指標です。箱の中の線は中央値。ひげは、テューキー流では「Q1 − 1.5×IQR から Q3 + 1.5×IQR の範囲内にある、最も端のデータ点」まで伸ばします。その範囲を超えた点は外れ値候補として1点ずつ個別に描きます。

ひげの端範囲内の最小値Q1中央値Q3ひげの端外れ値候補IQR = Q3 − Q1(中央50%)Q3 + 1.5×IQR がひげの上限 — これを超えた点は個別に描く値の大きさ →
箱ひげ図の構造 — 箱が中央50%、ひげが裾、範囲外の点は外れ値候補として個別に打点する

読み取りのコツは、部品の「位置関係」を見ることです。中央値の線が箱の中央からずれていたり、片側のひげだけ長かったりすれば、分布はその方向に歪んでいます(歪度の視覚的なサインです)。箱が短ければ中央50%が密集しており、長ければばらついています。外れ値の点が多い側は裾が重いことを示します。

データのうち1点だけをスライダーで動かして、ひげが点を追いかける範囲と、外れ値として切り離される瞬間を確かめてみましょう。

⚡ 体験: 1点を端へ動かして外れ値になる瞬間を見る
中央値 45.0 / 平均 45.6 / ひげの上限 65.1
中央値平均全20点 0255075100

この点はいま中央50%(箱の中)にいます。スライダーで端へ動かして、ひげの外に出る瞬間を見てください。

多グループ比較という主戦場

箱ひげ図が最も輝くのは、カテゴリ別に分布を並べる場面です。たとえばAPIのエンドポイント別に応答時間の箱ひげ図を並べれば、「中央値はどこも同じだが、特定のエンドポイントだけ箱が長く外れ値だらけ」といった発見が数秒で得られます。平均値の棒グラフでは、この「ばらつきの差」と「外れ値の偏在」は完全に見えなくなります。代表値の比較にばらつきの情報を添えて示す、というのはデータ可視化の基本原則であり、箱ひげ図はそれを最小の描画コストで実現します。

実験や A/Bテストの結果報告でも、群ごとの箱ひげ図は定番です。2群の箱がほとんど重なっていれば、平均の差が統計的に意味を持つかは慎重に判断すべきだ、という直感的な予告にもなります(厳密な判断はもちろん検定に委ねます)。

落とし穴 — 箱ひげ図が隠すもの

万能に見える箱ひげ図にも死角があります。最大の弱点は、5数要約に圧縮する過程で「山の数」の情報が消えることです。山がふたつある二峰性の分布でも、箱ひげ図は単峰の分布とほぼ同じ姿になります。分布の形そのものを確かめたいときは度数分布とヒストグラムに立ち返るべきで、実務では「まず箱ひげ図で全グループを俯瞰し、気になるグループだけヒストグラムで精査する」という二段構えが効果的です。近年は箱ひげ図に分布の輪郭を重ねたバイオリンプロットや、データ点を直接重ね描きする方式で、この弱点を補うことも増えています。

もうひとつの注意は、外れ値ルールの機械的な適用です。「1.5×IQR」はテューキーが経験的に定めた便宜的な閾値であり、これを超えた点が誤りだとは限りません。右に歪んだ分布では正常な値でも大量に「外れ値」と表示されます。打点された点は「削除すべき異常」ではなく「個別に見るべき候補」— この姿勢は外れ値の扱い全般に通じる原則です。データ数が数件しかない場合も、四分位数自体が不安定になるため、箱ひげ図より点をそのまま描くほうが誠実です。道具の出自がEDAである以上、箱ひげ図は結論を下す図ではなく、問いを見つけるための図として使うのが正しい付き合い方です。