記述統計●●○○○

データ可視化の原則

Principles of Data Visualization ・ でーたかしかのげんそく

データの型と伝えたい比較に応じてグラフを選び、見た目の比がデータの比を裏切らないようにする原則

✦ 30秒で試す — 航海55%から52%に下がっただけで、棒の長さは半分に見せられる今年の棒を、昨年の棒の半分の長さに見せる縦軸の起点は?予想してみる

概要

データ可視化の原則とは、データをグラフにするときの「何を選び、何を避けるか」の判断基準です。グラフは数表よりはるかに速く多くを伝えますが、それは諸刃の剣でもあります。適切なグラフはデータの構造を一瞬で伝え、不適切なグラフは同じ速さで誤解を植え付けるからです。棒グラフか折れ線か円グラフか、軸はゼロから始めるか——これらは好みの問題ではなく、根拠のある選択の問題です。

原則の核は2つに要約できます。第一に、グラフの形式はデータの型と「見せたい比較」で決まるということ。量の比較なら棒、時間変化なら折れ線、2変数の関係なら散布図、分布の形ならヒストグラム(度数分布を棒で描いた図)や箱ひげ図——問いが決まればグラフはほぼ決まります。第二に、データが持つ以上の印象を与えないということ。軸の切り詰めや立体効果による誇張は、嘘の数字を1つも使わずに嘘の印象を作れてしまいます。

この語彙は「きれいなグラフの作り方」ではなく、読み手として騙されないため、作り手として誠実であるための原則です。レポートやダッシュボードが意思決定に直結する現在、グラフの読み書き能力は統計リテラシーの中核と言えます。

なぜ生まれたか

棒グラフ・折れ線グラフ・円グラフは、18世紀末から19世紀初めにウィリアム・プレイフェアが考案したものです。しかし長いあいだグラフ作りは職人芸と装飾の世界で、「どう描けば正確に伝わるか」の体系的な原則はありませんでした。20世紀にグラフが新聞・広告・行政資料へ爆発的に広まると、軸を切り詰めて差を誇張したグラフや、アイコンの面積で数量を表して印象を狂わせるグラフが氾濫し、1954年のダレル・ハフ『統計でウソをつく法』がその手口を告発してベストセラーになります。「グラフは嘘をつける」という問題意識が先にあり、原則はその対抗策として求められたのです。

体系化は1980年代に進みます。エドワード・タフテは1983年の著書で「インクはデータのために使え」という思想を打ち出し、データと無関係な装飾をチャートジャンクと名付けて批判しました。誇張の度合いを「グラフ上の変化の大きさ ÷ データの変化の大きさ」で測る嘘の係数(lie factor)を提案したのもタフテです。翌1984年にはウィリアム・クリーブランドとロバート・マギルが、人間が位置・長さ・角度・面積などから量を読み取る精度を実験で比べ、その序列を示しました。感覚論だった「良いグラフ」に、測定と知覚科学の根拠が与えられたのです。現在のグラフ設計の定石は、ほぼこの系譜の上に立っています。

詳細

グラフ選択 — 問いがグラフを決める

グラフ選びの出発点は「どんな比較を見せたいか」です。カテゴリ間の量の比較なら棒グラフ、時間に沿った変化なら折れ線グラフ、2つの数値変数の関係なら散布図、1変数の分布の形なら度数分布を描くヒストグラム、複数グループの分布の比較なら箱ひげ図が定石です。円グラフは、要素が少なく「全体に占める割合」だけを伝えたいとき以外は避けるべきとされます。人間は角度の比較が苦手で、要素が増えると読み取れなくなるからです。

グラフの形式は尺度水準とも対応します。名義尺度のカテゴリを折れ線でつなぐと、存在しない「あいだの値」を暗示してしまいます。順序に意味のないカテゴリは、アルファベット順などの恣意的な順ではなく値の大きい順に並べると比較しやすくなります。こうしたミスは、変数の型の取り違えから生まれます。

誇張の構造 — 同じデータが別の印象になる

誤解を生むグラフの代表例が、縦軸をゼロから始めない棒グラフです。棒グラフは「長さ」で量を表すため、軸を途中から始めると、棒の長さの比が量の比と一致しなくなります。

縦軸を 50 から始める5052545655%昨年52%今年今年の棒は昨年の4割 — 激減に見える縦軸を 0 から始める020406055%昨年52%今年今年の棒は昨年の95% — 差は小さい
同じデータでも縦軸の始点で印象が変わる — 棒の長さの比が量の比を裏切る

左のグラフでは、昨年 55% と今年 52% の差(3ポイント、約5%の減少)が、棒の長さでは「6割減」に見えます。タフテの嘘の係数で測ると、データの変化 5.5% に対してグラフの変化は 60% で、係数は約11です。係数が 1 なら正直、タフテは 0.95〜1.05 の範囲を外れたら「かなりの歪み」としました。

⚡ 体験: 縦軸を切り詰めると棒が嘘をつく
グラフ
本来のグラフ(0 から)55%昨年52%今年読み手が見るグラフ(0 から)55%昨年52%今年嘘の係数(対数目盛り)125102050×1.0
データの比1.06 倍棒の長さの比1.06 倍嘘の係数1.00

左のグラフの赤い線をつかんで上へ引き上げてください。線より下を切り捨てたグラフが右に出ます。差はたった 3ポイントです。

嘘の係数 = グラフ上の変化の大きさ ÷ データの変化の大きさ(1 なら正直)。データは昨年 55% → 今年 52%

部品で「折れ線にする」を選ぶと事情が変わります。折れ線グラフでは、縦軸をゼロから始めないことが一般に許容されます。棒グラフが「長さ = 量」として読まれるのに対し、折れ線は点の位置と傾き、つまり「変化」として読まれるからです。気温や株価のように、ゼロとの比較にそもそも意味がない量もあります。ただし縦方向に引き伸ばすほど傾きが急になり、同じ変化が急落にも横ばいにも見えるので、目盛りを明記し、縦横比を不自然にしないことが条件です。原則は「ゼロから始めよ」という一律のルールではなく、「読み手がどの視覚要素から量を読むか」から導かれるものだと分かります。

同種の誇張はほかにもあります。立体の円グラフは手前の扇形を実際より大きく見せます。アイコンの高さを2倍にすると面積は4倍になり、印象は4倍に膨らみます。2つの系列を左右別々の縦軸で重ねる二重軸のグラフは、軸の範囲の取り方しだいで2本の線を好きなように交差させたり並走させたりでき、ありもしない連動を演出できてしまいます。単位の違う量の関係を見せたいなら、別々のグラフに分けるか、散布図にするのが誠実です。

知覚の精度に沿わせる

クリーブランドとマギルは、人間が視覚要素から数量を読み取る精度に序列があることを示しました。論文の序列は次の6段階です。

共通の軸上の位置1揃っていない軸上の位置2長さ・方向・角度3面積4体積・曲率5色の濃淡・彩度6正確に読める大まかな傾向にしか向かない
クリーブランドとマギル(1984)による、量を読み取る精度の序列

同じ段にまとめられた長さ・方向(傾き)・角度も、彼らの実験で直接比べると長さの判断のほうが角度より正確でした。棒グラフ(位置と長さ)が円グラフ(角度と面積)より推奨されるのはこのためです。実務の指針としては、正確に比べてほしい値を共通の軸上の位置や長さで表し(棒グラフ・ドットプロット)、面積や色は「だいたいの傾向」を伝える用途(ツリーマップ・ヒートマップ)に限る、という使い分けになります。

色には、精度とは別の配慮も必要です。日本人男性の約5%は赤と緑の区別がつきにくい色覚特性を持つとされ、赤と緑だけで「良い・悪い」を塗り分けたグラフは情報が届きません。明るさの差を付ける、線種やラベルを併用する、といった工夫で色だけに頼らないようにします。また連続した量を色で表すときは、明るさが一方向に変わる配色を使うと順序が読み取れます。

もうひとつ、軸の目盛りの選択も読み取りを左右します。所得や人口のように何桁にもわたる量や、「何倍になったか」が本質の量は、対数軸にすると等しい比率が等しい間隔で並び、比較しやすくなります。ただし対数軸は読み手が見慣れていないことも多いので、軸に明記する配慮が要ります。

チャートジャンクとデータインク比

タフテのもう1つの指針が「データインク比を高めよ」です。グラフに使われるインク(画面なら描画要素)のうち、データそのものを表す部分の割合を高くし、背景の飾り、過剰なグリッド線、意味のない色分け、立体効果といったチャートジャンクを削る、という考え方です。装飾は単に無駄なのではなく、読み手の注意を奪い、ときに誇張の温床になります。「この要素を消したら伝わる情報が減るか」と自問し、減らないなら消す——これが実践的な判定法です。ただし削りすぎて素っ気なくなり、読み手の取っ掛かりを失うのも本末転倒で、近年は「理解や記憶を助ける装飾は残してよい」という釣り合いの取れた考え方が主流です。

作り手の規律として

まとめると、原則は3層に整理できます。(1) 問いと尺度に合ったグラフ形式を選ぶ、(2) 視覚要素の比がデータの比を裏切らないようにする(棒はゼロ起点、面積の誇張をしない、二重軸で連動を演出しない)、(3) データを運ばない装飾を削り、正確に読ませたい値ほど精度の高い視覚要素に割り当てる。そして軸ラベル・単位・データの出所を必ず明記することです。何をどう測った値なのかが書かれていなければ、どれほど美しいグラフでも検証のしようがありません。

最後に、可視化は発表のためだけのものではありません。探索的データ分析では、自分自身がデータを理解するために、粗いグラフを何十枚も描いては捨てます。そこでの誤読は、そのまま分析の誤りになります。人に見せるグラフでも自分が見るグラフでも、知覚の癖を知ったうえで描く——それがデータ可視化の原則の出発点です。

試問

ある割合が「昨年 55% → 今年 52%」に下がったことを示す棒グラフです。0 から描いた本来のグラフの赤い点線をドラッグすると縦軸の起点が持ち上がり、そこから下を切り捨てた「読み手が見るグラフ」ができあがります。この試問では棒の長さの比は伏せてあります。読み手が見るグラフの見え方と、起点の数字から考えてください。

✦ 命題挑戦中

縦軸の起点を選んで、55% → 52% の今年の棒を、昨年の棒のちょうど半分の長さに見せよ

  • 棒グラフのまま(長さで量を読ませるグラフ)
  • 読み手が見るグラフで、今年の棒の長さが昨年の棒のちょうど半分
⚡ 体験: 起点の線を動かして、棒の見え方を作る
グラフ
起点
本来のグラフ(0 から)55%昨年52%今年読み手が見るグラフ(0 から)55%昨年52%今年嘘の係数(対数目盛り)125102050×1.0
データの比1.06 倍棒の長さの比?嘘の係数1.00

左のグラフの赤い線をつかんで上へ引き上げてください。線より下を切り捨てたグラフが右に出ます。差はたった 3ポイントです。

嘘の係数 = グラフ上の変化の大きさ ÷ データの変化の大きさ(1 なら正直)。データは昨年 55% → 今年 52%