記述統計●○○○○

度数分布とヒストグラム

Frequency Distribution and Histogramどすうぶんぷとひすとぐらむ

データを区間ごとに数えて分布の形を可視化する、データ理解の出発点となる集計法

概要

度数分布は、データの取りうる範囲をいくつかの区間(階級)に区切り、各区間に入るデータの個数(度数)を数えた集計です。それを表にしたものが度数分布表、棒の高さで表した図がヒストグラムです。100人分のテストの点数をずらりと並べても何も見えてきませんが、「40点台が3人、50点台が12人、60点台が28人…」と数え上げた瞬間、データの「形」が浮かび上がります。

この「形を見る」ことこそが度数分布の目的です。山はひとつか、ふたつか。左右対称か、どちらかに裾を引いているか。ぽつんと離れた値はないか。平均や分散のような要約数値は分布を数個の数に圧縮してしまいますが、ヒストグラムは分布の全体像をそのまま見せてくれます。だからこそ、あらゆるデータ分析は「まずヒストグラムを描く」ことから始まると言ってよいのです。

集計としては単純そのものですが、後に学ぶ確率分布の直感的な原型でもあります。ヒストグラムの形を数式で理想化したものが確率分布だと考えると、記述統計から推測統計への橋渡しが見えてきます。

なぜ生まれたか

大量の数値を人間が直接眺めて理解することはできません。近代国家が国勢調査や徴兵検査で数万〜数百万件のデータを集めるようになった19世紀、「集めたはいいが、どう眺めるか」が切実な問題になりました。一覧表を何ページめくっても全体像はつかめず、平均だけでは「どうばらついているか」が消えてしまいます。区間ごとに数えて図にするという素朴な工夫は、この「多すぎて見えない」問題への解答でした。ヒストグラムという名前は19世紀末に統計学者カール・ピアソンが与えたものですが、区間集計の図示そのものはそれ以前から人口統計や物価の分析で使われていました。

もうひとつの動機は「分布の形そのものが情報を持つ」という発見です。ケトレーが兵士の胸囲データに釣鐘型の分布を見出したように、形が正規分布に近いのか、右に裾を引くのか、山がふたつあるのかは、データの背後にある仕組みを語ります。山がふたつなら、そこには異なる2つの集団が混ざっている — 度数分布は単なる整理術ではなく、データの生成過程を推理するための観察装置として発達してきました。

詳細

度数分布表からヒストグラムへ

作り方はシンプルです。まずデータの最小値から最大値までを等しい幅の階級に区切り、各階級に入る値を数えて度数とします。階級の代表として中央の値(階級値)を取り、必要に応じて全体に占める割合(相対度数)や、その階級までの累積(累積度数)を添えれば度数分布表の完成です。これを棒の高さにしたものがヒストグラムです。

30台40台50台60台70台80台90台100階級(点数の区間)— 棒どうしは隙間なく並べる度数(人数)山の頂上 = 最頻値のあたり右の裾(高得点は少ない)
ヒストグラムの構造 — 階級ごとの度数を棒の高さで表し、分布の形を読む

棒グラフとの違いはよく問われるポイントです。棒グラフはカテゴリ(名義尺度)ごとの量を比べる図で、棒の並び順は自由、棒どうしは離して描きます。ヒストグラムは連続量の分布を表す図で、横軸は数直線そのものです。だから棒は隙間なく並べ、順番を入れ替えることはできません。この違いの根っこには尺度水準の区別があります。

階級の幅がすべてを左右する

ヒストグラム作りで唯一にして最大の判断が、階級の幅(または階級の数)です。幅が広すぎると分布は数本の棒に潰れ、ふたつの山があっても見えません。狭すぎると各階級の度数がまばらになり、ギザギザのノイズだらけの図になります。目安として「階級数 ≒ 1 + log2(データ数)」というスタージェスの公式が知られていますが、これは出発点に過ぎず、実務では幅を数通り変えて描き比べるのが定石です。幅を変えると見え方が変わること自体が、ヒストグラムの正直さでもあり危うさでもあります。

同じ140件のデータで、階級の幅だけを変えるとどう見え方が変わるか、実際に確かめてみましょう。

⚡ 体験: 階級の幅を変えると同じデータが違って見える
データは140件で固定(スタージェスの公式の目安: 幅 約12
0255075100度数値(階級数: 13

ふたつの山とその間の谷が見えます — このデータには異なる2つの集団(たとえばキャッシュのヒットとミス)が混ざっています。同じデータでも幅しだいでこの構造が消えることを、スライダーで確かめてください。

形を読む — 分布の観察が語ること

ヒストグラムを描いたら、まず山の数を見ます。山がひとつ(単峰)なら均質な集団、ふたつ(二峰)なら異質な集団の混在が疑われます。たとえば機械の処理時間の分布に二峰性があれば、「キャッシュに当たった場合と外れた場合」のような2つの経路が潜んでいるかもしれません。次に対称性です。右に長く裾を引く分布(所得や待ち時間に典型的)では、平均が中央値より大きくずれます。代表値のどれを使うべきかは、ヒストグラムの形を見て初めて判断できるのです。形の非対称さや裾の重さを数値化したものが歪度と尖度です。

さらに、本体から離れた位置にぽつんと立つ棒は外れ値の兆候です。入力ミスなのか、本物の極端な値なのかを確かめるきっかけになります。また、特定の値だけ不自然に度数がゼロだったり突出していたりする場合は、測定の癖や欠損値を特定の数値で埋めた痕跡が疑われます。こうした観察を分析の最初に行う習慣が探索的データ分析の中核であり、ヒストグラムはその主役です。

確率分布への橋

相対度数(割合)でヒストグラムを描き、データを増やしながら階級を細かくしていくと、ギザギザの輪郭はしだいに滑らかな曲線に近づいていきます。この極限の理想化が連続型の確率分布の密度曲線です。「ヒストグラムの面積が割合を表す」という見方に慣れておくと、確率密度関数の「曲線の下の面積が確率」という定義が自然に飲み込めます。度数分布は記述統計の道具であると同時に、確率の世界への入口でもあるのです。

なお、分布の形を保ったまま複数グループを並べて比較したいときは、ヒストグラムを重ねるより箱ひげ図が適しています。単独の分布を深く観察するならヒストグラム、多群の比較なら箱ひげ図、という使い分けが実務の定番です。