度数分布とヒストグラム
Frequency Distribution and Histogram ・ どすうぶんぷとひすとぐらむ
データを区間ごとに数えて分布の形を可視化する、データ理解の出発点となる集計法
✦ 30秒で試す — 航海同じデータでも、区切り方しだいで山の数が変わって見える区切りを0・10・20・30にして幅10で数えると、山はいくつに見える?予想してみる概要
度数分布は、データの取りうる範囲をいくつかの区間(階級)に区切り、各区間に入るデータの個数(度数)を数えた集計です。それを表にしたものが度数分布表、棒の高さで表した図がヒストグラムです。100人分のテストの点数をずらりと並べても何も見えてきませんが、「40点台が3人、50点台が12人、60点台が28人…」と数え上げた瞬間、データの「形」が浮かび上がります。
この「形を見る」ことこそが度数分布の目的です。山はひとつか、ふたつか。左右対称か、どちらかに裾を引いているか。ぽつんと離れた値はないか。平均のような代表値や分散のような要約数値は分布を数個の数に圧縮してしまいますが、ヒストグラムは分布の全体像をそのまま見せてくれます。だからこそ、あらゆるデータ分析は「まずヒストグラムを描く」ことから始まると言ってよいのです。
集計としては単純そのものですが、後に学ぶ確率分布の直感的な原型でもあります。ヒストグラムの形を数式で理想化したものが確率分布だと考えると、記述統計から推測統計への橋渡しが見えてきます。
なぜ生まれたか
大量の数値を人間が直接眺めて理解することはできません。近代国家が国勢調査や徴兵検査で数万〜数百万件のデータを集めるようになった19世紀、「集めたはいいが、どう眺めるか」が切実な問題になりました。一覧表を何ページめくっても全体像はつかめず、平均だけでは「どうばらついているか」が消えてしまいます。区間ごとに数えて図にするという素朴な工夫は、この「多すぎて見えない」問題への解答でした。ヒストグラムという名前は19世紀末に統計学者カール・ピアソンが与えたものですが、区間集計の図示そのものはそれ以前から人口統計や物価の分析で使われていました。
もうひとつの動機は「分布の形そのものが情報を持つ」という発見です。ケトレーが兵士の胸囲データに釣鐘型の分布を見出したように、形が正規分布に近いのか、右に裾を引くのか、山がふたつあるのかは、データの背後にある仕組みを語ります。山がふたつなら、そこには異なる2つの集団が混ざっている — 度数分布は単なる整理術ではなく、データの生成過程を推理するための観察装置として発達してきました。
詳細
度数分布表からヒストグラムへ
作り方はシンプルです。まずデータの最小値から最大値までを等しい幅の階級に区切り、各階級に入る値を数えて度数とします。階級の代表として中央の値(階級値)を取り、必要に応じて全体に占める割合(相対度数)や、その階級までの累積(累積度数)を添えれば度数分布表の完成です。これを棒の高さにしたものがヒストグラムです。
棒グラフとの違いはよく問われるポイントです。棒グラフはカテゴリ(名義尺度)ごとの量を比べる図で、棒の並び順は自由、棒どうしは離して描きます。ヒストグラムは連続量の分布を表す図で、横軸は数直線そのものです。だから棒は隙間なく並べ、順番を入れ替えることはできません。この違いの根っこには尺度水準の区別があります。
階級の幅と起点 — 同じデータが別の形に見える
ヒストグラム作りで最大の判断が、階級の幅(または階級の数)です。幅が広すぎると分布は数本の棒に潰れ、ふたつの山があっても見えません。狭すぎると各階級の度数がまばらになり、偶然の凹凸でギザギザの図になります。幅を決める目安としては、階級数を「1 + log₂(データ数)」とするスタージェスの公式が古くから知られています。ただしこれは釣鐘型のデータを想定した式で、データが数千件を超えると階級が少なすぎて細部を潰しがちです。現代の統計ソフトでよく使われるのが、幅を「2 × IQR ÷ データ数の立方根」とするフリードマン=ダイアコニスの規則です。IQR は分位数で測ったばらつき(第3四分位数 − 第1四分位数)なので、外れ値に振り回されずに幅を決められます。
見落とされがちなのが、階級の起点(区切りをどこから始めるか)です。幅が同じでも、区切りの位置を半分ずらすだけで、ある値の集まりが1本の棒に収まったり2本に割れたりして、山の高さや谷の有無が変わります。幅と起点の両方が恣意的に選べるという事実は、ヒストグラムの正直さでもあり危うさでもあります。どちらの公式も出発点にすぎず、実務では幅と起点を数通り変えて描き比べ、どの描き方でも残る特徴だけを信じるのが定石です。
同じ200件のデータで、階級の幅と起点を動かすと見え方がどう変わるか、実際に確かめてみましょう。
上の細い線が200個の生データ、下がそのヒストグラムです。金の枠の右端の丸で階級の幅、左端の丸で階級の起点(区切りの位置)を動かせます。
データ: 応答時間(ms)200件。目安の幅 — スタージェス 8.8 / フリードマン=ダイアコニス 12.7
階級幅が不揃いなとき — 高さではなく面積で描く
所得の統計のように、裾の長いデータでは「0〜100万円、100〜200万円、…、1000万円以上」のように、上のほうの階級を広く取ることがあります。このとき度数をそのまま棒の高さにすると、幅の広い階級ほど多くのデータを集めて背が高くなり、分布の形を見誤ります。正しくは、度数を階級の幅で割った「密度」を高さにして、棒の面積が度数(割合)に比例するように描きます。ヒストグラムの本質は高さではなく面積にある — この見方は、後で確率密度を理解するときにそのまま生きてきます。
形を読む — 分布の観察が語ること
ヒストグラムを描いたら、まず山の数を見ます。山がひとつ(単峰)なら比較的均質な集団、ふたつ(二峰)なら異質な集団の混在が疑われます。ただし2つの集団の山が近いと、混ざっていても単峰に見えることがあるので、「単峰だから一様な集団だ」とまでは言えません。たとえば機械の処理時間の分布に二峰性があれば、「キャッシュに当たった場合と外れた場合」のような2つの経路が潜んでいるかもしれません。次に対称性です。右に長く裾を引く分布(所得や待ち時間に典型的)では、平均が中央値より大きくずれます。代表値のどれを使うべきかは、ヒストグラムの形を見て初めて判断できるのです。形の非対称さや裾の重さを数値化したものが歪度と尖度です。
さらに、本体から離れた位置にぽつんと立つ棒は外れ値の兆候です。入力ミスなのか、本物の極端な値なのかを確かめるきっかけになります。また、特定の値だけ不自然に度数がゼロだったり突出していたりする場合は、測定の癖や欠損値を特定の数値で埋めた痕跡が疑われます。こうした観察を分析の最初に行う習慣が探索的データ分析の中核であり、ヒストグラムはその主役です。
確率分布への橋
相対度数(割合)でヒストグラムを描き、データを増やしながら階級を細かくしていくと、ギザギザの輪郭はしだいに滑らかな曲線に近づいていきます。この極限の理想化が連続型の確率分布の密度曲線です。「ヒストグラムの面積が割合を表す」という見方に慣れておくと、確率密度関数の「曲線の下の面積が確率」という定義が自然に飲み込めます。度数分布は記述統計の道具であると同時に、確率の世界への入口でもあるのです。
なお、複数グループの分布を並べて比較したいときは、ヒストグラムを重ねるより箱ひげ図が見やすくなります。ただし箱ひげ図は5つの数に要約する過程で山の数を消してしまうので、単独の分布の形を深く観察するならヒストグラム、多群の俯瞰なら箱ひげ図、と使い分けるのが実務の定番です。
試問
応答時間(ミリ秒)200件のデータを、区間ごとの件数を棒にしたヒストグラムで描いています。棒1本が受け持つ区間の幅を階級の幅、区切りを始める位置を起点と呼びます。データには2つの山がありますが、その間の谷が見えるかどうかは区切り方しだいです。右端の丸で幅を、左端の丸で起点を動かせます。
上の細い線が200個の生データ、下がそのヒストグラムです。金の枠の右端の丸で階級の幅、左端の丸で階級の起点(区切りの位置)を動かせます。
データ: 応答時間(ms)200件。目安の幅 — スタージェス 8.8 / フリードマン=ダイアコニス 12.7
