代表値
Measures of Central Tendency ・ だいひょうち
平均・中央値・最頻値など、データ全体をひとつの値で要約する指標
✦ 30秒で試す — 航海平均より稼ぐ人が、9人中たった1人ということもある平均より稼ぐ人が9人目だけになるのは、9人目がいくら以上のとき?予想してみる概要
代表値は、たくさんの数値からなるデータ全体を「ひとつの値」で要約する指標の総称です。テストの平均点、世帯年収の中央値、アンケートで最も多かった回答 — これらはすべて代表値です。何百・何千という数値をそのまま眺めても人間には全体像がつかめないため、「このデータはだいたいこのあたり」という中心の位置をひとつの数で表します。
代表的なものは3つあります。すべての値を足して個数で割る「平均(mean)」、値を小さい順に並べたときにちょうど真ん中に来る「中央値(median)」、最も多く登場する値である「最頻値(mode)」です。同じデータでもこの3つは一般に異なる値になり、どれを使うかで伝わる印象が大きく変わります。「平均年収」と「年収の中央値」が数百万円も違う、というのはよくある話です。統計学の入口でありながら、「どの代表値を選ぶか」は実務でも常に問われる判断です。
代表値はデータ要約の第一歩ですが、それだけではデータの姿は半分しか分かりません。中心のまわりにどれだけ散らばっているかを測る分散と標準偏差と組み合わせて、はじめてデータの輪郭が見えてきます。
なぜ生まれたか
「データをひとつの値で代表させる」という発想は、天文学の観測誤差の処理から本格的に発展しました。同じ星の位置を何度測っても値が毎回微妙にずれる。どれが「本当の値」なのか。近世の天文学者や測量家たちは、複数の観測値の平均を取ればばらつきが打ち消し合い、真の値に近づくことを経験的に知り、18〜19世紀にはそれが誤差の理論として数学的に裏づけられました。平均は「ばらばらの観測から真実を推定する」ための道具として市民権を得たのです。
一方で、平均だけでは困る場面もすぐに明らかになりました。ひとつは、ときどき混じる大きな測り間違いです。1回の誤記が平均を大きく狂わせるなら、「真ん中の観測値」を採るほうが安全ではないか — ラプラスらはこうした考察から中央値の性質を調べ、19世紀後半にはゴルトンが「median」という名前で広めました。もうひとつが所得のような社会のデータです。大多数の人の年収が400万円前後でも、ごく少数の超高所得者がいるだけで平均は大きく引き上げられ、「平均年収」は誰の実感とも合わない値になります。一部の極端な値(外れ値)に平均が引きずられる問題への解決策として、順位の真ん中を取る中央値が使われるようになりました。データの性質に応じて代表値を使い分ける、という現代的な作法はこの課題から生まれています。
詳細
平均と中央値 — 釣り合う点と、真ん中の人
平均は「合計を個数で割る」という計算のとおり、全員の値が結果に反映されます。物理的には、数直線を板に見立てて各データに同じ重さのおもりを載せたとき、板が釣り合う支点の位置が平均です。支点からの距離の合計が左右で等しくなる点、と言い換えてもかまいません。数学的に扱いやすく、分散と標準偏差や相関など多くの統計量が平均を土台に定義されているため、統計学の中心的な代表値です。その反面、すべての値が「支点からの距離」で効くからこそ、遠く離れた値ひとつで支点は大きく動きます。
中央値は「並べて真ん中」なので、値の大小の順番しか見ていません。いちばん端の値が2倍になろうと100倍になろうと、真ん中の人が入れ替わらない限り中央値は動きません。この頑健さ(ロバスト性、外れ値に強い性質)から、所得・住宅価格・Webサービスの応答時間など、分布の裾が長く伸びるデータでは中央値が標準的に使われます。データ数が偶数のときは、中央に並ぶ2つの値の平均を取ります。
下の部品で、端の1人を遠くへ引っぱってみてください。支点(平均)はそれを追いかけて滑っていき、平均より下にいる人が9人中8人になる一方、中央値の人は同じ場所にとどまります。
9人の年収が板に載っています。板を釣り合わせる支点が平均、緑の輪の人(値の順で5番目)が中央値です。いちばん右の人をつかんで、右の端まで引っぱってみてください。
玉 = 1人の年収。三角の支点 = 板が釣り合う位置 = 平均。緑の輪 = 値の順で5番目の人 = 中央値
最頻値 — カテゴリにも使える代表値
最頻値は「最も多く現れる値」です。「一番人気の商品」「最も多い回答」は最頻値の考え方そのものです。尺度水準で言えば、血液型や都道府県のような名義尺度(区別しかできないカテゴリ)には平均も中央値も定義できず、使える代表値は最頻値だけです。満足度の5段階のような順序尺度のカテゴリなら、並べて真ん中が決まるので中央値も使えます。
連続的な数値データでは、まったく同じ値が繰り返し現れることはまれなので、最頻値はそのままでは役に立ちません。区間に区切って数えた度数分布で最も高い階級を探すことになりますが、その答えは区間の切り方しだいで変わります。また山が2つある分布では「最頻値」が2つあり得るので、1つの値で要約すること自体が不適切なこともあります。
分布の形と代表値のずれ
左右対称な分布では、平均・中央値・最頻値はほぼ同じ場所に重なります。ところが分布が片側に裾を引く(歪む)と、3つは分離します。右に長い裾を持つ分布 — 所得や応答時間が典型です — では、多くの場合、最頻値が最も左、中央値がその右、平均がさらに右に来ます。平均だけが裾の方向へ強く引っ張られるためです。
この「平均と中央値のずれ」自体が、分布の歪みを知る手がかりになります。平均が中央値より明確に大きければ右に裾が長い、小さければ左に裾が長い、と読み取るのが基本です。ただしこの並び順は滑らかな単峰の分布でよく成り立つ経験則であって、定理ではありません。離散的なデータ(家族の人数など)や山が複数ある分布では、平均と中央値の大小が歪みの向きと逆になる例も知られています。歪みを数値で確かめたいときは歪度と尖度を計算し、何より度数分布とヒストグラムで形を目で見るのが確実です。平均だけを見て「代表的な値」と思い込むのは典型的な落とし穴で、まず平均と中央値の両方を出して比べるのが実務での定石です。
平均の仲間たち — トリム平均・幾何平均
平均と中央値の「あいだ」を取る道具がトリム平均(刈込平均)です。値を並べて上下の端から一定の割合(たとえば各10%)を切り捨て、残りで平均を取ります。フィギュアスケートや体操の採点で最高点と最低点を除いてから平均するのはこの発想で、1人の審判の極端な採点に結果が左右されないようにしています。切り捨てる割合を0%にすれば普通の平均、ほぼ50%にすれば中央値になるので、「外れ値への強さ」と「全データを使う効率」のあいだで調整できるつまみだと言えます。日本銀行が消費者物価の基調を見るために公表している刈込平均値も、同じ考え方です。
掛け算で積み重なる量には幾何平均を使います。ある投資が1年目に +50%、2年目に −50% だったとき、変化率の単純な平均は 0% ですが、実際の資産は 1.5 × 0.5 = 0.75 倍に減っています。n 個の倍率を掛けて n 乗根を取る幾何平均なら √0.75 ≈ 0.866、つまり年率 約 −13.4% という正しい答えになります。成長率・利回り・倍率の平均を足し算で取るのは、実務で繰り返される誤りです。同様に、同じ距離を異なる速さで往復したときの平均の速さは、速さの逆数を平均して逆数に戻す調和平均で求めます。
実務での使い分けと、その先
どの代表値を使うべきかは「データの分布の形」と「何を伝えたいか」で決まります。左右対称に近いデータ(身長や多くの測定誤差など、正規分布に近い形のもの)なら平均で問題ありません。裾の長いデータ(年収、資産、レイテンシ)なら中央値が「典型的な1人」の実態を表します。ただし「総額」に関心があるなら話は逆で、売上の見込みや予算の計算には平均(× 人数 = 合計)が必要です。中央値に人数を掛けても合計にはなりません。名義尺度のカテゴリデータ(血液型、選択式アンケート)なら最頻値しか使えません。
また、代表値は母集団と標本の考え方とも深く結びついています。手元のデータ(標本)の平均は、その背後にある母集団全体の平均の推定値として使われます。標本平均がどれくらい信頼できるかを論じるのが中心極限定理や信頼区間であり、代表値は記述統計と推測統計の両方をつなぐ、統計学全体の出発点になっています。
試問
9人の年収を、数直線の板にのせた玉で表しています。板が釣り合う支点が平均、下から5番目の人の年収が中央値です。玉をつかんで年収を変え、平均(支点)と中央値の動き方の違いを使ってください。
9人の年収が板に載っています。板を釣り合わせる支点が平均、緑の輪の人(値の順で5番目)が中央値です。玉をつかんで左右に動かせます。
玉 = 1人の年収。三角の支点 = 板が釣り合う位置 = 平均。緑の輪 = 値の順で5番目の人 = 中央値
