散布図
Scatter Plot ・ さんぷず
2つの変数を縦横の座標に打ち、関係のパターンを目で捉えるための基本の図
概要
散布図は、2つの変数の組を「横軸に一方、縦軸にもう一方」の座標として打ち、データを点の集まりとして描く図です。たとえば生徒ごとの「勉強時間と試験の点数」、店舗ごとの「広告費と売上」のように、1件のデータが2つの数値を持つとき、その1件を平面上の1点に対応させます。点の並び方を眺めるだけで、「一方が増えるともう一方も増えるのか」「関係は直線的か曲がっているのか」「仲間はずれの点はないか」が一目で分かります。
ヒストグラムや箱ひげ図が「1つの変数のばらつき」を見る道具だとすれば、散布図は「2つの変数の関係」を見る最初の道具です。相関係数のような数値指標を計算する前に、まず散布図を描く — これはデータ分析の鉄則とされています。数値だけでは見えない関係の形や外れ値の存在を、散布図は隠さず見せてくれるからです。
なぜ生まれたか
データを表として並べただけでは、2つの量の間の関係はほとんど読み取れません。数十行の数値の対を眺めて「片方が大きいときもう片方も大きい傾向がある」と見抜くのは、人間の認知には荷が重い作業です。19世紀後半、遺伝の研究をしていたゴルトンは「親の身長と子の身長」のような対のデータの関係を調べる中で、データを平面上の点として配置する表現にたどり着きました。点の雲の形から関係の強さと向きを読み取るこの方法は、のちに相関係数や回帰分析という数値的な道具へと発展していきます。つまり散布図は、相関と回帰という統計学の中核概念が生まれる母体になった図なのです。
数値の要約が発達した後も、散布図の役割は失われませんでした。むしろ「同じ相関係数でもまったく違う関係がありうる」ことが知られるにつれ、数値計算の前に必ず目で確かめる図として、その地位はいっそう固まりました。
詳細
点の雲が語る4つの基本パターン
散布図を読むときは、点の雲の「向き」「形」「密度」「例外」に注目します。右上がりに並べば正の相関(一方が増えるともう一方も増える)、右下がりなら負の相関、雲が丸く広がって向きが見えなければ無相関です。そして忘れてはならないのが、直線ではない関係 — たとえばU字型やカーブを描く関係です。曲がった関係は相関係数ではほぼゼロと計算されることがあり、数値だけ見ると「関係なし」と誤読してしまいます。
外れ値と「見ないと分からない」構造
散布図のもう一つの重要な役割は、外れ値の発見です。雲から大きく離れた1点は、相関係数や回帰分析の直線を大きく歪めることがあります。1点が加わるだけで「ほぼ無相関」が「強い相関」に化けることすらあり、数値だけ見ていては気づけません。この危うさを示す有名な例が「アンスコムの数値例」で、平均・分散・相関係数・回帰直線がすべてほぼ同一の4つのデータセットが、散布図に描くとまったく異なる姿を見せます。要約統計量は便利ですが、それだけを信じてはいけない — 散布図はその戒めを目に見える形で突きつけます。
また、雲が2つ以上の塊に分かれて見えることもあります。これは男女・店舗の業態・製品の系列など、データに隠れたグループが混ざっているサインです。グループごとに色分けして描き直すと、「全体では正の相関に見えたが、グループ内ではむしろ負の相関だった」という逆転(シンプソンのパラドックスと呼ばれる現象)が見つかることもあります。散布図は関係を「測る」道具である前に、データの構造を「疑う」道具なのです。
実務での使いどころと拡張
散布図が最も活躍するのは分析の初期段階、つまり探索的データ分析の場面です。気になる変数の組を片っ端から描いてみて、関係の形・外れ値・グループ構造に当たりを付けてから、相関係数の計算やモデル作りに進みます。変数が多いときは、すべての組み合わせの散布図を格子状に並べた「散布図行列」がよく使われます。
描くうえでの実務的な注意もいくつかあります。データ件数が数万を超えると点が重なって真っ黒な塊になるため、点を半透明にする、点の密度を濃淡で表す、といった工夫が必要になります。点の大きさで3つ目の変数を表す「バブルチャート」への拡張も定番です。なお散布図が有効なのは両軸とも量的な変数のときで、データの種類と尺度でいう質的変数どうしの関係にはクロス集計を使う、という道具の使い分けも覚えておきたいところです。散布図は最も単純な部類のデータ可視化でありながら、2変数の関係を見る場面では今なお最初に描くべき図であり続けています。
