交互作用
Interaction Effect ・ こうごさよう
ある変数の効果が別の変数の値によって変わる、変数の組み合わせ効果
✦ 30秒で試す — 航海男性には効き、女性には逆に効く。平均すると「効果なし」患者が男性7割・女性3割の病院では、平均の効果は?予想してみる概要
交互作用とは、「ある変数の効果の大きさが、別の変数の値によって変わる」ことです。たとえば「薬の効果は年齢が高いほど弱まる」「広告の効果は平日と休日で違う」——薬の効果・広告の効果そのものが、年齢や曜日という別の変数に依存して変化しています。このとき「薬と年齢の間に交互作用がある」と言います。疫学では同じ現象を効果修飾、心理学では調整効果(moderation)とも呼びます。
回帰分析や重回帰分析の標準的なモデルは、「各変数の効果は足し算で積み重なる」という加法性を前提にしています。薬の効果が +5、年齢の効果が −2 なら、両方合わせて +3。この足し算の世界では、薬の効果は誰にとっても +5 で一定です。しかし現実には「組み合わせによって効果が変わる」ことは珍しくなく、その組み合わせ効果を表現する仕掛けが交互作用項です。
交互作用は分野を問わず現れます。医学では薬どうしの相互作用や、患者の特徴による効き方の違い、マーケティングでは施策と顧客セグメントの相性、機械学習では特徴量の組み合わせ効果。「平均的には効果がない施策が、特定の層にだけ効いていた」という発見はしばしば交互作用の発見であり、分析の解像度を一段上げてくれる概念です。
なぜ生まれたか
交互作用の概念を体系化したのは、1920年代にロザムステッド農事試験場で働いたフィッシャーの実験計画法です。当時の圃場試験は「一度に1つの要因だけを変える」のが良い実験だと考えられていました。しかし肥料の種類と品種を同時に変えて収量を調べると、「肥料Aは品種Xには効くが品種Yには効かない」という現象が頻繁に観察されます。要因を1つずつ別々に試していては、この組み合わせの効果は永遠に見えません。
フィッシャーは、複数の要因のすべての組み合わせを同時に試す要因計画(factorial design)を提唱しました。同じ区画数で各要因の効果を推定でき、しかも組み合わせの効果まで測れる——一石二鳥の設計です。そして分散分析の枠組みの中で、各要因の単独の効果(主効果)と組み合わせの効果(交互作用)を分離して検定する方法を確立しました。
回帰分析の文脈でも同じ課題がありました。加法モデルは解釈しやすい反面、「効果が条件によって変わる」現実を表現できません。かといって完全に自由なモデルにすると解釈も推定も難しくなります。変数どうしの積の項を1つ加えるだけで「効果の変わり方」を表せる交互作用項は、加法モデルの簡潔さを保ちながら現実の複雑さへ一歩踏み出す、最小限の拡張として定着しました。
詳細
交互作用項の仕組み
回帰モデルで交互作用を表すには、2つの変数の積を新しい説明変数として加えます。たとえば「y = a + b×薬 + c×年齢」というモデルに「d×薬×年齢」という積の項を足すと、薬の効果は「b + d×年齢」となり、年齢によって変わる量になります。d がゼロなら効果は一定(交互作用なし)、d が負なら年齢とともに薬の効果が弱まる、というように、積の係数 d が「効果の変わり方」を表します。
この構造は図にすると一目で分かります。横軸に一方の変数、縦軸に結果をとり、もう一方の変数の水準ごとに線を引く——交互作用がなければ線は平行になり、交互作用があれば線の傾きが水準ごとに変わります。
2×2 で見る — 交互作用は「差の差」
最も単純な場合として、薬(なし/あり)と性別(男/女)の 2×2 の実験を考えます。4つのグループの平均を、横軸に薬、縦軸に結果をとって性別ごとに線で結んだ図が交互作用プロットです。男性での薬の効果は男性の線の傾き、女性での薬の効果は女性の線の傾きで表され、交互作用はその差——「女性での効果 − 男性での効果」という差の差です。一方、主効果(薬の平均的な効果)は、2つの効果の平均にあたります。
下の部品で4つの丸を上下に動かしてみてください。線が平行なら交互作用は 0 で、「薬の効果は +20」と1つの数で語れます。線を交差させると、各性別では大きく効いているのに、主効果はほぼ 0 になります。
2本の線がほぼ平行です。薬の効果は男性 +20、女性 +20 とほぼ同じ——交互作用なしなので、 「薬の効果は +20」と主効果1つで語って構いません。丸をつかんで片方の線だけ傾けてみてください。
4つの丸 = 各グループの平均スコア(2×2 の実験)。同じ性別どうしを線で結ぶ。右は薬の効果(あり − なし)
交差型の交互作用は、主効果だけを報告することの危うさを端的に示します。「肥料Aは品種Xで増収、品種Yで減収」のとき、肥料Aの主効果は 0 に見えますが、それは「効果がない」のではなく「効果が条件で逆転している」のです。交互作用を見ずに主効果だけを読むと、正反対の結論に迷い込みます。
主効果の意味は交互作用項で変わる
交互作用項をモデルに入れると、元の変数の係数(主効果)の意味が変わります。「y = a + b×薬 + c×年齢 + d×薬×年齢」での b は「薬の平均的な効果」ではなく「年齢が 0 歳のときの薬の効果」です。0 歳が意味を持たないデータでは、b 単独の解釈はほぼ無意味です。そこで実務では、年齢を平均で中心化(平均を引いて 0 中心にする)してから積を作るのが定石で、そうすれば b は「平均的な年齢の人での薬の効果」になります。
よく誤解されますが、中心化で変わるのは主効果の係数の意味(と、それに伴う標準誤差)だけです。交互作用の係数 d、その標準誤差と検定、モデル全体の当てはまりや予測値は、中心化してもしなくても完全に同じです。中心化しないと積の項と元の変数が強く相関し、主効果の標準誤差が大きく出るため「多重共線性で推定が不安定になる」と言われることがありますが、それはデータから遠い年齢 0 歳での効果を推定しているからで、交互作用の推定が不安定になっているわけではありません。
もう1つの定石は、「交互作用項を入れたら、その構成要素の主効果も必ず残す」という階層原則です。積の項だけを残して主効果を削ると、変数の原点の取り方(年齢を何歳から数えるか)で結論が変わる不自然なモデルになります。
交互作用は尺度に依存する
見落とされがちなのが、交互作用の有無は結果をどの尺度で測るかに依存する、という点です。ある治療で、高リスク群の発症率が 20% → 10%、低リスク群が 2% → 1% に下がったとします。比(リスク比)で見れば両群とも 0.5 倍で交互作用なし、差で見れば −10 ポイントと −1 ポイントで大きな交互作用あり。同じデータが、尺度によって「効果は一様」にも「効果は層によって違う」にもなります。
結果を対数変換したり、一般化線形モデルでロジットや対数のリンク関数を使ったりすると、モデル上の交互作用は変換後の尺度で定義されます。ロジスティック回帰で交互作用項が 0 でも、確率の差で見ると効果は層によって違う、ということが普通に起きます。尺度をどう取り直しても消えないのは、効果の向きが逆転する交差型の交互作用だけです。交互作用を報告するときは「どの尺度での交互作用か」を明示し、意思決定に使うなら、何人が救われるかに直結する絶対的な差の尺度でも確かめるのが誠実です。
実務での使いどころと落とし穴
交互作用の探索は「どの層に効くのか」という問いに直結するため、サブグループ分析や、施策が効く相手を見つけるアップリフトモデリングの基礎になっています。一方で落とし穴も多い領域です。第一に、考えられる交互作用項の数は変数の組み合わせの数だけあり、手当たり次第に検定すると多重比較の問題で偽の発見が量産されます。交互作用は事前の仮説に基づいて絞り込み、探索的な発見は別のデータで検証するのが原則です。
第二に、交互作用の推定には主効果よりずっと大きな標本が要ります。2×2 の実験では、交互作用(差の差)の標準誤差は主効果(効果の平均)の2倍になるため、同じ大きさの交互作用を主効果と同じ精度で推定するには4倍の標本が、交互作用が主効果の半分の大きさなら16倍の標本が必要です。検出力が足りないまま「交互作用は有意でなかった、だから効果は一様だ」と結論するのは早計です。第三に、前述のとおり交互作用は尺度しだいで現れたり消えたりするので、変換やリンク関数の選択と切り離して議論できません。
交互作用は「世界は足し算でできていない」ことをモデルに教える装置です。むやみに入れれば解釈もデータも溺れますが、適切に使えば、平均の裏に隠れた構造を照らし出してくれます。
試問
薬のあり・なし × 男性・女性の 2×2 の実験で、4つの丸はそれぞれのグループの平均の改善スコアです。同じ性別どうしが線で結ばれ、線の傾きがその性別での薬の効果を表します。薬の主効果とは、男女の効果を平均した「全体としての薬の効果」です。4つの丸をつかんで上下に動かし、実験結果を作ってください。
2本の線がほぼ平行です。薬の効果は男性 +20、女性 +20 とほぼ同じ——交互作用なしなので、 「薬の効果は +20」と主効果1つで語って構いません。丸をつかんで片方の線だけ傾けてみてください。
4つの丸 = 各グループの平均スコア(2×2 の実験)。同じ性別どうしを線で結ぶ。右は薬の効果(あり − なし)
