認識と評価●●●●○

税効果会計

Tax Effect Accountingぜいこうかかいけい

会計と税務の利益のずれを調整し、税金費用を会計上の利益に対応させる仕組み

概要

税効果会計は、「会計上の利益」と「税務上の課税所得」のずれを調整して、税金費用を会計上の利益に対応させるための仕組みです。法人税等の記事で見たとおり、税金は会計の利益そのものではなく、税法独自のルールで計算した課税所得に税率を掛けて決まります。このため、実際に納める税額をそのまま費用にすると、損益計算書の税引前利益と税金費用の比率が期ごとにばらつき、「利益の約3割が税金」という素朴な期待が成り立たなくなります。

そこで税効果会計は、ずれのうち「いずれ解消する一時的なもの」に注目し、その税金への影響額を「繰延税金資産」「繰延税金負債」として貸借対照表に載せ、損益計算書では「法人税等調整額」という科目で税金費用を増減させます。こうすることで、税引前利益に対する税金費用の割合が実効税率に近づき、当期純利益が期間比較しやすい数字になります。

日商簿記では1級レベル、実務では上場企業の決算に必須の論点で、「会計と税務は別の体系である」という理解を前提にした、いわば両者の橋渡し役です。

なぜ生まれたか

税効果会計がない世界を想像してみましょう。ある会社が当期に大きな貸倒引当金を計上したとします。会計上は当期の費用ですが、税務上は実際に貸倒れが確定するまで損金(税務上の費用)として認められないことが多く、課税所得は会計利益より大きくなります。結果、当期は「利益は小さいのに税金は多い」、貸倒れが確定した翌期は「利益は大きいのに税金は少ない」という逆転が起き、税引後の利益が各期の実力を映さなくなります。

この違和感の正体は、費用と収益を同じ期間に対応させるという費用収益対応の原則が、税金費用については破れていることです。税金は当期の利益が原因で生じる負担なのだから、その原因が生まれた期に費用として計上すべきである — この発想を徹底するために、「当期に多く払った税金は将来の税金の前払い(資産)」「当期に払わずに済んだ税金は将来の税金の未払い(負債)」と捉え直して期間配分する技術として、税効果会計が生まれました。日本では連結決算制度の整備とともに導入され、今では個別・連結を問わず上場企業の標準となっています。

詳細

一時差異と永久差異 — 調整するずれ、しないずれ

会計と税務のずれには二種類あります。一つは「一時差異」で、認識するタイミングが違うだけで、いずれ両者が一致するずれです。貸倒引当金や引当金の損金算入限度超過、減価償却の償却限度超過、減損損失の損金不算入などが代表例で、これらは将来、貸倒れの確定や資産の売却といった事実が起きたときに解消します。もう一つは「永久差異」で、交際費の損金不算入や受取配当金の益金不算入のように、時間がたっても永久に一致しないずれです。税効果会計の対象になるのは一時差異だけです。永久差異は将来の税金を増やしも減らしもしないため、調整のしようがありません。

会計の利益と税務の所得のずれ同じ取引でも認識のルールが違う一時差異 — いずれ解消する貸倒引当金・減価償却の限度超過減損損失の否認 など永久差異 — 永久に一致しない交際費の損金不算入受取配当金の益金不算入 など将来減算一時差異解消時に税金が減る→ 繰延税金資産将来加算一時差異解消時に税金が増える→ 繰延税金負債調整の対象外将来の税額に影響しないため一時差異 × 実効税率 が繰延税金資産・負債の金額になる
会計と税務のずれの分類 — 税効果会計が扱うのは一時差異のみ

繰延税金資産と繰延税金負債 — 税金の前払いと未払い

一時差異はさらに、解消するときの効き方で二つに分かれます。「将来減算一時差異」は、解消時に課税所得を減らす(=将来の税金を減らす)差異です。当期に否認された貸倒引当金が翌期に損金として認められれば、翌期の税金がその分軽くなります。つまり当期は税金を「前払い」した状態であり、この前払い分(一時差異 × 実効税率)を「繰延税金資産」という資産として計上します。逆に「将来加算一時差異」は、解消時に課税所得を増やす差異で、当期に払わずに済んだ税金の「未払い」として「繰延税金負債」という負債を計上します。

仕訳の骨格を数字で追ってみましょう。実効税率30%の会社が、当期に貸倒引当金100を計上したが税務上は全額否認されたとします。課税所得は会計利益より100大きくなり、税金は30多く納めることになります。そこで決算で「借方 繰延税金資産 30 / 貸方 法人税等調整額 30」と仕訳します。損益計算書では法人税等の下に法人税等調整額 △30 が並び、税金費用の合計が会計利益に見合う水準まで圧縮されます。翌期に貸倒れが確定して差異が解消したら、逆仕訳「借方 法人税等調整額 30 / 貸方 繰延税金資産 30」で取り崩します。実際の納税額は一円も変わらないことに注意してください。税効果会計が動かすのは、税金という費用を「どの期の負担として見せるか」だけです。

一時差異の大きさを変え、税効果の適用を切り替えて、税負担率のぶれが調整額に吸収される様子を確かめてみましょう。

⚡ 体験: 税金費用を利益に対応させる各期の税引前利益 1,000万円・実効税率 30%
税効果会計
第1期 引当金を計上(税務は否認)
税引前利益1,000万
課税所得(税務)1,300万
法人税等(納税額)390万
法人税等調整額△90万円
税金費用の合計300万
税負担率(対 税引前利益)30.0%
第2期 貸倒れ確定(差異が解消)
税引前利益1,000万
課税所得(税務)700万
法人税等(納税額)210万
法人税等調整額+90万円
税金費用の合計300万
税負担率(対 税引前利益)30.0%
- - 税引前利益 × 30% = 300万円 の水準390万300万納税額税金費用第1期210万300万納税額税金費用第2期
2期合計の納税額 600万 ✓ 税効果を適用してもしなくても変わらない第1期末の繰延税金資産 90万(一時差異 300万 × 30%)→ 第2期の解消で取り崩して 0円

第1期に多く納めた税金を「将来の税金の前払い(繰延税金資産)」として資産に載せ、費用からは除く。第2期に差異が解消したら取り崩して費用に戻す。動くのは費用の期間帰属だけで、納税額そのものは一円も変わりません — 税負担率が両期とも30%に揃うことを、差異の大きさを変えて確かめてください。

回収可能性 — 繰延税金資産は無条件の資産ではない

繰延税金資産の資産性は、「将来の税金を減らせる権利」にあります。ということは、将来そもそも十分な課税所得がなければ、この権利は使えません。赤字が続く会社では、差異が解消しても減らすべき税金が存在しないからです。そのため繰延税金資産の計上には「回収可能性」の検討が必須で、将来の課税所得の見込み(収益力)や差異の解消スケジュールに基づいて、回収できる分だけを資産に載せます。これは将来予測に依存する会計上の見積りそのものであり、業績が悪化した会社が繰延税金資産を一気に取り崩して巨額の最終赤字に転落する、というニュースは決算の世界の定番です。楽観的な計上を戒めるという意味で、保守主義の感覚が強く働く領域でもあります。

実務での読み方と広がり

税効果会計を知っていると、決算書の読み方が一段深くなります。損益計算書では「税引前利益 × 実効税率 ≒ 法人税等 + 法人税等調整額」が成り立っているかを確かめ、大きく乖離していれば永久差異や繰延税金資産の取り崩しといった事情を注記で探る、という読み方ができます。また貸借対照表の繰延税金資産の大きさは、その会社が「将来の黒字」をどれだけ見込んでいるかの表明でもあります。

適用場面も広く、退職給付会計の引当金や減損損失は代表的な将来減算一時差異ですし、連結財務諸表では未実現利益の消去などから連結固有の一時差異が生じます。会計基準が「発生の実態」に忠実になるほど税務との距離は開き、税効果会計の出番は増える — 会計と税務という二つの体系のずれを吸収する緩衝装置として、現代の決算に欠かせない仕組みになっています。