推測統計●●●●○

交絡

Confounding ・ こうらく

原因と結果の両方に影響する第三の変数が、見かけの関係を作ったり歪めたりする現象

✦ 30秒で試す — 航海アイスが売れる日ほど水難事故が多い。犯人は別にいる気温がほぼ同じ日どうしで比べると、相関は?予想してみる

概要

交絡は、原因と結果の両方に影響する第三の変数(交絡因子)のせいで、2つの変数の間に見かけ上の関係が生まれたり、本当の関係が歪んで見えたりする現象です。「コーヒーを飲む人は肺がんになりやすい」というデータがあっても、コーヒーが原因とは限りません。喫煙者にコーヒー好きが多く、喫煙が肺がんを引き起こしているなら、コーヒーと肺がんの相関は喫煙という交絡因子が作り出した見かけのものです。

交絡は因果推論における最大の敵と言ってよい存在です。観察データから「X の効果」を推定しようとするとき、立ちはだかる障害のほとんどは交絡の形をしています。しかも厄介なことに、交絡因子は測定されていないことも、そもそも研究者が思いついてすらいないこともあります。見かけの関連を作るだけでなく、本当にある効果を打ち消して「効果なし」に見せることもあるので、「相関がないから因果もない」とも言えません。

だからこそ、交絡を「見つける・防ぐ・取り除く」ための方法——無作為化、層別、統計的調整——が疫学や統計学で体系的に発展してきました。データ分析の結果を読むとき「この関係を歪めている第三の変数はないか」と問う習慣は、統計リテラシーの核心と言えます。

なぜ生まれたか

交絡という考え方が必要になったのは、実験のできない対象——病気の原因、生活習慣、社会階層——を観察データで比べ始めた19〜20世紀の疫学と社会統計においてです。比較したい要因以外の条件が群の間で揃っていないため、単純な比較が誤った結論を導くことが繰り返し経験されました。「病院で治療を受けた人の死亡率が自宅療養より高い」のは治療が有害だからではなく、重症者ほど病院に行くから——こうした比較のねじれを名指しする言葉として、confounding(「混ぜ合わせてしまう」の意)が定着しました。

決定的だったのは、交絡が「注意すれば避けられる不手際」ではなく「観察研究に構造的につきまとう問題」だと認識されたことです。1920〜30年代にフィッシャーが農事試験で示した無作為化は「割り当てを偶然に委ねれば、未知の交絡因子まで含めて平均的に打ち消せる」という根本的な解決で、これが後のランダム化比較試験の土台になりました。一方、無作為化できない場面のために、層別・マッチング・回帰調整といった「測定済みの交絡因子を統計的に揃える」技法が整備されていきます。1950年代の喫煙と肺がんをめぐる論争で、フィッシャー自身が「喫煙したくなる遺伝的体質が肺がんも起こすのでは」と交絡を理由に因果を疑い、コーンフィールドらが「その体質はどれほど強く喫煙と結びついていなければならないか」を計算して反論したことは、交絡を定量的に議論する感度分析の出発点にもなりました。

詳細

交絡の構造——分岐点としての第三の変数

交絡因子 Z の特徴は、原因候補 X にも結果 Y にも矢印を伸ばす「分岐点」であることです。因果ダイアグラムの言葉では、X ← Z → Y という経路(バックドアパス)が X と Y の間に開いており、X → Y の本当の効果とは別の「関連の通り道」になっています。この裏道を通って流れる関連が、見かけの相関を作り出します。

喫煙交絡因子 Zコーヒー原因候補 X肺がん結果 Y喫煙者にはコーヒー好きが多い喫煙ががんを引き起こす見かけの関連(向きのない相関)コーヒー → 肺がん の矢印は無いZ を固定して比べれば裏道は閉じ、X と Y の本当の関係(ここでは無関係)が見える
交絡の構造——喫煙という分岐点が、コーヒーと肺がんの間に向きのない「見かけの関連」を作る

「Z を固定して比べる」とは、Z の値がほぼ同じ人(日)どうしだけで X と Y の関係を見ることです。アイスクリームの売上と水難事故は、気温という交絡因子を通じて強く相関します。気温の範囲をしぼると何が起きるか、動かして確かめてください。

⚡ 体験: 気温を固定すると相関が消える
気温(交絡因子): 比べる日の範囲をしぼる5℃10℃15℃20℃25℃30℃35℃
全体の回帰直線(r = 0.90)窓の中の日だけの回帰直線
全体の相関0.90窓の気温全範囲窓の中の日数120窓の中の相関—

アイスがよく売れる日ほど水難事故が多い——全体の相関は r = 0.90。本当にアイスのせいでしょうか。まず「気温で色をつける」を押してみてください。

1点 = 1日(架空データ 120日)。下の帯の窓 = 比べる日の気温の範囲。窓の外の日は薄くなる

窓を狭めると、窓の中の相関がほぼ 0 に落ちます。全体の強い相関は、暑い日にはアイスも売れ、泳ぐ人も増えるという「気温の違い」がそのまま写ったものでした。どの気温帯に窓を置いても相関が消えることが、アイスそのものには事故を増やす働きがないことの傍証になります。これが層別による交絡の除去の原型です。

交絡と間違えやすいもの

X と Y の間にある変数がすべて交絡因子ではありません。X → M → Y のように因果の通り道の途中にある変数は「中間変数(媒介変数)」であり、これを調整すると測りたい効果そのものを消してしまいます。運動 → 体重 → 血圧という経路で「体重を調整して運動の効果を見る」と、体重を経由する効果が抜け落ちます。また、X と Y の両方から矢印を受ける変数(合流点)を調整すると、逆に存在しなかった関連を作り出してしまい、選択バイアスの一種になります。「第三の変数はとにかく調整すればよい」は誤りで、因果構造の中でその変数がどの位置にいるかで扱いが正反対になる——これが因果ダイアグラムを描く実務的な理由です。

なお、名前の似た多重共線性は「説明変数どうしが相関しすぎて推定が不安定になる」という計算上の問題であり、因果の歪みである交絡とは別物です。

交絡への3つの対処

第一の対処は無作為化です。処置の割り当てを偶然に委ねれば、喫煙のような既知の因子も、誰も思いついていない未知の因子も、群の間で平均的に等しくなります。ランダム化比較試験が因果推論のゴールドスタンダードとされるのは、未知の交絡まで断ち切れるほぼ唯一の方法だからです。

第二は層別です。交絡因子の値ごとにデータを分け——喫煙者どうし、非喫煙者どうしで比較し——層の中では交絡因子が一定になるようにします。クロス集計で層別して眺めるのは最も素朴で強力な確認手段で、上の体験で気温の窓を狭めたのもこの操作です。層別すると全体と層別で結論が逆転することがあり、これがシンプソンのパラドックスです。

第三は統計モデルによる調整です。重回帰分析に交絡因子を説明変数として入れる、処置を受ける確率で群を揃える傾向スコアを使う、といった方法で「交絡因子が同じ値の人どうしの比較」を擬似的に作ります。ただしこれらが取り除けるのは測定された交絡だけで、未測定の交絡には無力です。観察研究の結論に必ず「未測定の交絡が残っている可能性」という留保が付くのは、このためです。

調整しても残るもの、調整しすぎて壊すもの

測定済みの交絡因子を調整しても、偏りが残ることがあります。これを残差交絡と呼びます。原因は主に2つで、ひとつは交絡因子の測り方が粗いこと。喫煙を「吸う・吸わない」の2値だけで調整しても、1日の本数や喫煙年数の違いは残り、その分の交絡は消えません。年齢を「40歳以上か未満か」で分けるのも同じです。もうひとつはモデルの形の誤りで、交絡因子と結果の関係が曲線なのに直線で調整すると、取りきれない部分が残ります。体験で窓を広いままにすると相関が残ったのは、まさにこの「粗い層別」の状態です。

逆方向の失敗が過剰調整です。「念のため」と手元の変数を片端から調整に入れると、処置の結果として動く変数(中間変数やその子孫)や合流点が混じり、効果を消したり偽の関連を作ったりします。たとえば新しい営業施策の効果を見るのに「商談数」を調整すると、施策が商談を増やすことで売上を伸ばしていた分が消えます。調整に入れてよいのは、原則として処置より前に決まっていて、処置と結果の両方に影響しうる変数です。変数の数ではなく、変数の位置で判断します。

実務での勘どころ

分析結果を報告する前に「X と Y の両方に効く変数を3つ挙げよ」と自問してみてください。プロダクト分析なら、ユーザーの利用歴・流入経路・デバイスあたりはほぼ常に交絡候補です。挙がった候補が測定済みなら層別か回帰で調整し、未測定なら結論のトーンを「関連が見られた」に抑えます。さらに一歩進めるなら、「結論を覆すには、未測定の交絡がどれほど強くなければならないか」を見積もる感度分析(E値など)を添えると、読み手が結論の頑健さを判断できます。交絡は完全には消せませんが、何を疑い、何を調整し、何が残っているかを言葉にできることが、信頼される分析と危うい分析を分けます。

試問

120日分の、アイスの売上と水難事故の件数を散布図にしています。どちらも気温の高い日ほど多く、全体では強く相関して見えます。下の気温の帯で窓の両端をつかんで狭め、窓ごと左右に滑らせると、窓に入った気温の日だけで相関係数 r を計算します。

✦ 命題挑戦中

寒い日・中くらいの日・暑い日のどの気温帯でも、気温を幅 5℃ 以下に固定した窓(12日以上)の中では、アイスと水難事故の相関が弱い(|r| < 0.3)ことを確かめよ

  • 寒い帯(窓の中心が 15℃ 未満)
  • 中くらいの帯(15〜25℃)
  • 暑い帯(25℃ を超える)
⚡ 体験: 窓を狭めて、気温帯ごとに確かめる
気温(交絡因子): 比べる日の範囲をしぼる5℃10℃15℃20℃25℃30℃35℃
全体の回帰直線(r = 0.90)窓の中の日だけの回帰直線
全体の相関0.90窓の気温全範囲窓の中の日数120窓の中の相関—

アイスがよく売れる日ほど水難事故が多い——全体の相関は r = 0.90。本当にアイスのせいでしょうか。まず「気温で色をつける」を押してみてください。

1点 = 1日(架空データ 120日)。下の帯の窓 = 比べる日の気温の範囲。窓の外の日は薄くなる