推測統計●●●●●

操作変数法

Instrumental Variable ・ そうさへんすうほう

結果に直接効かず処置だけを動かす変数を使い、未観測の交絡を回避する手法

✦ 30秒で試す — 航海くじ引きの結果で、教育が賃金に与える効果が測れるくじは能力と無関係。これで教育の効果を正しく測れる?予想してみる

概要

操作変数法(IV)は、処置(原因側の変数)には影響するが、結果には処置を通じてしか影響しない第三の変数——操作変数——を見つけ、それが引き起こす処置の変動だけを使って因果効果を推定する手法です。たとえば「教育年数が賃金に与える効果」を知りたいとき、生まれた時期による就学期間の違いや、自宅から大学までの距離を操作変数として使う分析が有名です。

なぜそんな回りくどいことをするのか。観察データでは、処置と結果の両方に効く交絡因子——しかも測定できていないもの——が潜んでいるのが普通だからです。教育と賃金の例なら「本人の能力や意欲」がそれで、能力は進学もしやすくし、賃金も高めます。傾向スコアのような共変量調整は測定済みの交絡にしか効きませんが、操作変数法は発想を変え、「交絡と無関係な外部要因が生んだ処置のばらつき」だけを取り出すことで、未観測の交絡ごと迂回します。

いわば操作変数は「自然が行った部分的なくじ引き」です。生まれた時期は本人の能力とは無関係に決まるのに、就学年数を少しだけ動かす——その部分の変動はランダム化比較試験の割り付けに似た性質を持ちます。計量経済学で発展し、疫学(遺伝子の変異を操作変数に使うメンデルランダム化)にも広がった、観察データからの因果推論の切り札的手法です。ただしその切れ味は、データでは確かめきれない仮定にすべてを預けることと引き換えです。

なぜ生まれたか

起源は1920年代の経済学、需要と供給の同時性問題です。市場で観測される価格と数量は、需要曲線と供給曲線の交点にすぎません。価格と数量の散布図に回帰分析を当てはめても、出てくる直線は需要曲線でも供給曲線でもない「交点の軌跡」であり、係数に因果的な意味はありませんでした。1928年、経済学者フィリップ・ライトが著書の付録で示した解決策は、「供給側だけを動かす要因——たとえば天候——を使う」ことでした。天候は消費者の需要には直接影響しないので、天候による供給の上下に沿って交点が動くと、その軌跡は需要曲線そのものをなぞります。これが操作変数の原型です(付録は遺伝学者である息子のシューアル・ライトの経路分析とも深く関わっています)。

その後この考え方は、「説明変数が誤差項と相関してしまう」あらゆる状況——未観測の交絡、逆因果(結果が原因にも影響する)、説明変数の測定誤差——への汎用的な処方箋として一般化されました。共通する問題意識は、回帰の係数が因果効果として読めるのは説明変数の変動が「外生的」(誤差項と無関係)なときだけであり、観察データではそれが崩れている、ということです。操作変数法は、外生的な変動源を外から持ち込むことでこの前提を回復させます。1990年代にはインベンスとアングリストが「操作変数の推定値は誰にとっての効果なのか」を明確にする理論(LATE)を整え、この功績はカードの自然実験研究とともに2021年のノーベル経済学賞の対象になりました。

詳細

成立条件 — 3つの要件

変数 Z が、処置 X と結果 Y の関係の操作変数として使えるためには、3つの条件が必要です。よく「関連性と排除制約の2つ」とまとめられますが、2つ目は性質の違う2つの条件に分けて考えたほうが、どこが疑わしいかを議論しやすくなります。

第一に関連性: Z は X を実際に動かすこと。これはデータで検証できます。第二に外生性(独立性): Z は未観測の交絡 U と無関係であること。Z が「くじ引きのように」決まっていて、X と Y の両方に効く背景要因とつながっていない、という条件です。第三に排除制約: Z は X を経由する以外の経路で Y に影響しないこと。Z が U と無関係でも、Z から Y へ別の抜け道があれば推定は偏ります。第二と第三はどちらもデータからは検証できず、その状況の仕組みに関する知識で正当化するしかありません。この構造は因果ダイアグラムで描くと一目で分かります。

未観測交絡 U例: 能力・意欲操作変数 Z例: 生まれた時期処置 X例: 教育年数結果 Y例: 賃金① 関連性知りたい効果② 外生性: Z と U はつながらない③ 排除制約: Z から Y への直接の道はない
操作変数の構造 — Z は X だけを動かし、Y へは必ず X を経由する。禁止される2本の経路(×)が無いことが前提

生まれた時期の例で読むと、米国では就学開始の年齢と義務教育の終了年齢が誕生日で決まるため、年の早い時期に生まれた人は、義務教育の年限ぎりぎりで学校を辞めた場合、わずかに在学期間が短くなります(関連性)。生まれた時期は本人の能力とは無関係に決まり(外生性)、賃金へ直接影響する理由もない(排除制約)と考えられます。だからこそ、生まれた時期に由来する教育年数の違いに対応する賃金差は、能力という未観測交絡に汚染されていない因果効果として読める——これが1991年のアングリストとクルーガーの研究の論理でした。

推定の仕組み — 二段階最小二乗法(2SLS)

代表的な推定法が二段階最小二乗法です。名前のとおり最小二乗法を2回使います。

第1段階: X を Z に回帰X の予測値(Z 由来の変動だけ)第2段階: Y を予測値に回帰係数 = 因果効果の推定値
二段階最小二乗法 — 交絡に汚れていない「Z 由来の X の変動」だけで Y を説明する

第1段階で作る X の予測値は、「Z で説明できる部分の変動」だけを含み、交絡由来の変動が取り除かれています。第2段階では、結果 Y を X そのものではなくこの予測値に回帰します。Z が0/1の二値で他に変数がない最小構成では、この推定値は「Z による Y の差 ÷ Z による X の差」という比(ワルド推定量)に一致します。たとえば遅く生まれた人は早く生まれた人より平均で賃金が0.1%高く、教育年数が0.1年長いなら、教育1年あたりの効果は 0.1% ÷ 0.1年 = 1% です。「Z が動かしたぶんの X あたり、Y がどれだけ動いたか」という直感どおりの量です。なお、第2段階を普通の回帰ソフトで手作業で回すと係数は合っても標準誤差が誤るため、2SLS専用の関数を使います。

弱い操作変数と、生まれた時期の教訓

実務上の最大の敵は弱い操作変数です。Z が X をほとんど動かさない場合、ワルド推定量の分母が0に近くなるため、推定値は激しく不安定になり、標準誤差は爆発します。さらに悪いことに、Z と U のごくわずかな相関(外生性や排除制約の小さな破れ)が、小さな分母で割られて大きな偏りに増幅されます。弱い操作変数を大量に使うと、2SLS の推定値は交絡に汚れた普通の回帰の値の方向へ引き戻されるという偏りも知られています。第1段階の説明力を F 統計量で確認し、目安として10を下回るような弱い操作変数は使わない、というのがスタイガーとストックが1997年に示して以来の作法です(近年は、検定の大きさを正しく保つにはさらに厳しい基準が必要だという研究もあります)。

この問題を世に知らしめたのが、まさに生まれた時期の研究でした。1995年、バウンドとイェーガーとベイカーは、アングリストとクルーガーの分析が「生まれた四半期 × 生まれた年 × 州」の組み合わせで何百もの操作変数を使っていた点を検討し、一つひとつが極めて弱いことを示しました。そして、生まれた四半期の代わりに乱数で作ったでたらめな四半期を操作変数にしても、元の論文とよく似た推定値と、見かけ上は小さな標準誤差が出ることを示したのです。推定値が情報からではなく、弱い操作変数の偏りから生まれていた可能性を突いたこの批判は、以後の操作変数研究の作法を大きく変えました。加えて、生まれた季節は親の社会経済的な背景や健康状態とわずかに相関するという研究もあり、外生性そのものにも疑問が出されています。「いかにも無関係そうな変数」でも、仮定は常に疑われ続けるということです。

IV 推定は交絡を迂回する代償として、通常の回帰よりも信頼区間が大幅に広くなります。偏りの少なさを取るか、推定のばらつきの小ささを取るか、というトレードオフを常に抱えた手法です。

推定しているのは「誰の」効果か — LATE と単調性

もう1つの重要な注意点は、操作変数法が推定するのは全員の平均的な効果ではなく、操作変数に反応して処置が変わった人々(コンプライヤー)にとっての効果、LATE(局所平均処置効果)だという点です。人々は Z への反応で4種類に分けられます。Z によって処置を受けたり受けなかったりするコンプライヤー、Z に関係なく常に受ける人、常に受けない人、そして Z と逆向きに反応する「へそ曲がり」(ディファイア)です。常に受ける人・受けない人は Z で処置が変わらないので推定に寄与しません。

ここで必要になるのが単調性の仮定、つまり「へそ曲がりはいない」という条件です。Z が処置を促す向きにしか働かないなら、ワルド推定量はコンプライヤーの平均効果にきちんと一致します。もしへそ曲がりがいると、コンプライヤーの効果とへそ曲がりの効果が打ち消し合うように混ざり、推定値は誰の効果とも言えないものになります。インベンスとアングリストが1994年に示したのはこの条件のもとでの解釈で、単調性も外生性・排除制約と同じく、データからは直接確かめられない仮定です。

生まれた時期の例なら、LATE は「生まれた時期次第で就学年数が変わった人」——つまり義務教育が終わったらすぐに学校を辞めたい層——の教育効果であり、大学院まで進む層の効果ではありません。異なる操作変数は異なる集団の効果を測るため、推定値が食い違っても矛盾とは限りません。結果を報告するときは「この効果は誰について言えるのか」を明示する必要があります。

使いどころ

操作変数法が活きるのは、未観測の交絡や逆因果が深刻で、共変量調整では歯が立たない場面です。政策のくじ引き(徴兵抽選、学校の入学抽選)、制度の閾値、地理的な距離、遺伝子の変異(メンデルランダム化)などが定番の操作変数です。割り付けを守らない参加者がいるランダム化比較試験で、「割り付けられたこと」を操作変数にして「実際に処置を受けたこと」の効果を推定するのも、最も説得力のある使い方の1つです。くじは本当にランダムなので、外生性の心配がほとんどありません。

一方で、良い操作変数は「見つけるもの」であって「作るもの」ではなく、外生性と排除制約の説得力がすべてを決めます。第1段階の強さを必ず報告し、排除制約が破れていそうな経路を自分から列挙して反論しておくことが、読み手の信頼を得る作法です。処置のタイミングに前後の構造があるなら差の差法、測定済みの交絡が主な問題なら傾向スコアと、状況に応じて仮定の異なる手法を選び分け、あるいは併用して結論の頑健さを確かめることが、観察データの因果推論の実践です。

試問

教育を長く受けた人ほど賃金が高くても、能力や意欲の高い人ほど長く学び、しかも稼ぐので、それだけでは教育の効果とは言えません。そこで、本人の能力とは無関係に教育年数だけを動かす「きっかけ」(操作変数)を探し、それが生んだ教育年数の差と賃金の差から効果を割り出すのが操作変数法です。きっかけが使えるには、①教育年数を実際に動かす(関連性)、②能力・意欲と無関係に決まる(外生性)、③教育年数を通してしか賃金に効かない(排除制約)、の3つが要ります。

✦ 命題挑戦中

教育年数 X が賃金 Y に与える効果を推定したい(未観測の交絡 U = 本人の能力・意欲)。8つの操作変数 Z の候補を、使えるものと、崩れる条件ごとに仕分けよ

操作変数として使える3つの条件を満たしうる
① 関連性が崩れるZ が X を動かさない
② 外生性が崩れるZ が U とつながる
③ 排除制約が崩れるZ が X を通らずに Y に効く

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